介護で家族崩壊しそうなときは早めの相談が必要
介護をきっかけに家族関係が悪化したり、介護者本人が心身ともに追い詰められたりするケースは決して珍しいものではありません。厚生労働省の令和4年(2022年)国民生活基礎調査では、同居する主な介護者の60.8%が日常的に悩みやストレスを抱えていると報告されており、半数を大きく超える家庭で介護負担が表面化しています。
- 介護者一人に負担が集中しやすい
- 使える制度を知る機会が少ない
- 休む時間が確保しにくい
- 家族関係がぎくしゃくしやすい
- 介護保険サービスを併用しやすい
- 専門職と一緒に状況を整理できる
- 役割分担を見直すきっかけになる
- 選べる選択肢が広がる
一方で、地域包括支援センターやケアマネジャー、介護保険サービスといった公的な支援を早い段階で活用すれば、介護負担を分散させ、家族崩壊と呼ばれるような状況を防げる可能性は十分にあります。「もう限界」と感じてから動くのではなく、限界を迎える前の相談が家族を守る最大の手段になります。
家族だけで抱え込むほど限界を迎えやすい
介護は身体的な負担に加えて、24時間気が休まらない精神的な負担、医療費や介護用品にかかる経済的負担、そして「親孝行できているのか」という心理的な葛藤まで、複数の負担が同時に積み重なります。家族だけで抱え込むと、休息時間も相談相手も確保できないまま負担が蓄積し、介護者自身が体調を崩すケースが珍しくありません。
東京都健康長寿医療センターをはじめとする研究機関は、介護者の身体的な不調や抑うつ傾向を繰り返し報告しています。民間調査によれば、介護うつ状態に該当する介護者は約3割にのぼるとされ、介護をきっかけに介護者自身が医療や福祉の支援を必要とする側に回ってしまう「共倒れ」が現実の問題として起きています。
- 家族の中で介護役が1人に固定されている
- 休日も介護に追われ、自分の時間が消えている
- 愚痴や相談を打ち明けられる相手がいない
- 「自分が頑張るしかない」と思い込んでいる
該当する項目が多いほど、家族崩壊と呼ばれる状況に近づきやすい状態と考えられます。介護を1人に集中させない仕組みづくりが、結果的に介護を受ける本人の生活の質を守ることにもつながります。
介護者の努力だけでは解決できない問題が多い
認知症の進行による昼夜逆転、転倒や徘徊への対応、医療的ケアの増加といった問題は、家族の努力や精神論だけで乗り切れるものではありません。介護を受ける本人の身体機能や認知機能は加齢に伴って変化し続けるため、その時々で必要な支援内容も変わっていきます。
専門職に相談すれば、要介護度に応じた介護保険サービスの利用計画、住宅改修や福祉用具の貸与、医療機関との連携といった選択肢を整理してもらえます。最悪のケースとして報じられる介護殺人や心中事件の背景には、こうした制度に十分つながれないまま家族だけで抱え込んだ末の限界状態があると、専門家から繰り返し指摘されています。
介護保険サービスや医療との連携は、要介護認定とケアプラン作成を経て初めて使える仕組みです。「もう少し頑張れる」と先送りせず、専門職に早めに状況を共有することで、家庭内だけでは対処できない問題に第三者の手を入れられる状態を作ることが重要です。
早めに相談すれば使える制度やサービスが増える
介護保険サービスは、要介護認定の結果と本人の生活状況に応じて使える内容が決まります。要介護度が軽いうちから地域包括支援センターに相談しておくと、デイサービス・訪問介護・福祉用具レンタル・住宅改修費補助といった選択肢を組み合わせやすく、家族の負担を段階的に軽くしていけます。
仕事との両立については、雇用保険制度に基づく介護休業給付金があり、対象家族1人につき通算93日まで、休業前賃金の67%相当が支給されます。離職を急ぐ前にこうした制度を知っているかどうかで、家計と仕事を守れる確率は大きく変わります。
・デイサービス/ショートステイの調整
・福祉用具レンタル・住宅改修費補助
・介護休業給付金(93日・賃金67%)
・施設入居先の早期検討
相談先は、要介護認定を受けていない段階なら地域包括支援センター、すでに介護保険サービスを使っているなら担当ケアマネジャーが基本の窓口です。どちらも無料で相談でき、本人が同席できなくても家族からの相談を受け付けてくれます。
家族崩壊の前に出やすい限界サイン
家族崩壊と呼ばれる状況は、ある日突然起こるわけではなく、介護者の心身や家族関係に少しずつサインが現れた後で表面化します。サインの段階で気づいて手を打てれば、相談先や使える制度の選択肢を確保したまま立て直しが可能です。
ここでは介護現場でよく報告される5つの限界サインを、身体・行動・関係性・生活・精神の側面から整理します。一つでも当てはまれば、地域包括支援センターやケアマネジャーへの相談を検討する段階と考えて差し支えありません。
2. 行動面:本人に強く当たってしまう
3. 関係性:きょうだい・親族との連絡を避ける
4. 生活面:仕事・家計・子育てに支障
5. 精神面:「もう無理」と感じる日が増える
介護者が眠れない・食べられない状態が続いている
夜間の見守りや排泄介助で熟睡できない日が続いたり、食事の準備や食欲そのものが落ちて体重が減ったりするのは、身体が出している危険信号です。睡眠不足と栄養不足は判断力や感情のコントロールを大きく損ない、結果として介護を受ける本人への対応にも悪影響を及ぼします。
東京都健康長寿医療センター等の研究では、介護者の不眠や抑うつ傾向、腰痛・血圧上昇などの身体的不調が高頻度で確認されています。介護者の不調を「家族の頑張りで乗り越えるもの」と捉えてしまうと、医療や福祉に頼るタイミングを逃しやすくなります。
介護を受ける本人に強く当たってしまう
怒鳴ってしまう、無視してしまう、強い口調で命令してしまう、といった行動が増えてきた場合、介護者の余力が尽きかけているサインです。本来やさしく接したいのに余裕がない自分を責めてしまい、罪悪感がさらに介護者を追い詰める悪循環に入りやすい段階でもあります。
厚生労働省「高齢者虐待防止法」に基づく令和6年度調査(2025年12月公表)では、養護者(家族など)による高齢者虐待の相談・通報件数は41,814件と12年連続で過去最多を更新し、虐待と判断された件数も17,133件に達しました。多くは「介護を頑張ってきた家族」が限界点で起こしているもので、特別な家庭の問題ではないと厚労省も分析しています。
こうした行動が一度でも出た時点で、自分を責める前に地域包括支援センターや市区町村の高齢者福祉窓口に状況を伝えることが、本人と介護者双方を守る選択肢になります。
きょうだいや親族との連絡を避けるようになっている
「介護を手伝ってくれないきょうだいに不満が募り連絡したくなくなる」「介護費用の話題を避けるため親族との距離が広がる」といった変化は、家族関係に亀裂が入り始めているサインです。連絡を絶っている間に介護負担はさらに偏り、関係修復の難易度も上がっていきます。
関係性のサインに気づいた段階で、ケアマネジャーや地域包括支援センターの職員を交えた家族会議の場を設けると、感情的な対立を避けて費用負担や役割分担を話し合いやすくなります。第三者が同席するだけで議論の温度が下がり、決定事項を記録に残せる利点もあります。
仕事・家計・子育てに支障が出ている
介護のために遅刻や早退が続く、残業を断り続けて評価が下がる、子どもの行事に参加できない、家計から介護費用が想定以上に出ていく、といった生活崩壊のサインも見逃せません。総務省の就業構造基本調査(2022年)では、介護・看護を理由に離職した人は年間10.6万人規模で発生していると報告されています。
介護費用は生命保険文化センターの2024年度調査によれば月平均約9.0万円、平均介護期間は55ヶ月(4年7ヶ月)に及びます。短期的な負担で済むとは限らないため、介護休業や介護休暇を使って働き方を一時的に調整し、家計を守りながら介護体制を組み直す選択肢の確保が重要です。
・介護費用で家計の貯蓄が減り始めた
・子どもや配偶者との時間が確保できない
・介護離職を検討し始めている
「もう無理」と感じる日が増えている
朝起きたときに「今日も介護か」と気持ちが沈む、休日が来てもまったく回復しない、笑った記憶がしばらくない、といった精神面のサインは、介護うつや適応障害の前段階で見られる傾向です。民間調査によれば、介護者のおよそ3割が抑うつ状態に該当するという報告もあり、決して特殊な状態ではありません。
「もう無理」と思った段階は、すでに我慢を重ねた末の限界点に近い場所にいることが多いものです。地域包括支援センターやケアマネジャーへの連絡が難しければ、市区町村の介護保険・高齢者福祉窓口、かかりつけ医、心療内科など、声を出しやすい場所から相談を始めて構いません。
介護による家族崩壊を防ぐためにできること
家族崩壊を防ぐ対策は、特別な知識や費用を必要とするものではありません。地域包括支援センターへの相談、ケアマネジャーとの情報共有、介護保険サービスの活用、勤務先制度の利用、家族での役割分担、そして必要に応じた施設入居の検討といった、現実的な選択肢を順に組み合わせていくことが基本です。
ここで紹介する6つの対策は、いずれも公的な制度や無料相談を中心としたもので、介護負担を介護者1人に集中させない仕組みづくりにつながります。一度にすべてを行う必要はなく、いまの状況に合うものから順番に取り入れる形で問題ありません。
2. ケアマネジャーに介護負担を正直に伝える
3. デイサービス・ショートステイを増やす
4. 介護休業・介護休暇を使って離職を避ける
5. きょうだい・親族で役割分担を決める
6. 在宅介護が限界になる前に施設入居を検討
地域包括支援センターに相談する
地域包括支援センターは、市区町村が設置し、保健師・社会福祉士・主任ケアマネジャーといった専門職が常駐する高齢者支援の総合窓口です。介護保険サービスの利用前でも、家族からの電話相談・来所相談を無料で受け付けており、要介護認定の申請手続きや必要なサービス調整まで一括して案内してもらえます。
担当エリアは住民票の住所地で決まっており、市区町村の介護保険担当課や公式サイトから最寄りのセンターを確認できます。本人を連れていけない段階でも、家族のみの相談が可能なため、介護に行き詰まりを感じた早い段階で連絡してみる価値があります。
ケアマネジャーに介護負担を正直に伝える
すでに介護保険サービスを利用している家庭では、担当ケアマネジャーが現状の介護プランを管理しています。家族が「もう少し頑張れます」と無理をして実情を伝えないままだと、ケアプランも現状維持のままになり、必要な支援が増えないままになりがちです。
- 夜間の見守りで何時間眠れていないか
- 介護負担が偏っているきょうだい関係
- 仕事への支障・離職を考え始めていること
- 本人に強く当たってしまった経験
こうした情報を率直に共有することで、ケアマネジャーはサービス追加・回数増・ショートステイ利用・施設入居の検討といったプラン見直しの提案がしやすくなります。守秘義務があるため、相談内容が外に漏れる心配はありません。
デイサービスやショートステイを増やす
デイサービス(通所介護)とショートステイ(短期入所生活介護)は、介護者が休息時間を確保するレスパイトケアの基本となるサービスです。要介護度に応じた利用枠の中で、週ごと・月ごとの利用回数を調整できるため、介護者の心身負担を計画的に減らせます。
たとえばデイサービスを週2回から週4回に増やす、月に1回数日間のショートステイを定期利用する、といった見直しだけでも介護者の睡眠時間や自由時間は大きく変わります。費用負担を心配する場合は、ケアマネジャーに高額介護サービス費や負担限度額認定の対象になるかを確認することも有効です。
・ショートステイ(短期間の施設宿泊)
・小規模多機能型居宅介護(通い+泊まり+訪問)
・訪問介護(身体介護・生活援助)
介護休業・介護休暇を使って離職を避ける
育児・介護休業法に基づく介護休業は、対象家族1人につき通算93日まで、3回まで分割して取得できます。雇用保険の被保険者で要件を満たす場合は介護休業給付金の対象となり、休業前賃金日額の67%相当が支給されるため、家計を維持しながら介護体制の立て直しに時間を使えます。
あわせて、年5日(対象家族2人以上は10日)まで取得できる介護休暇は、通院付き添いやケアマネジャーとの打ち合わせなど短時間の用事に向いています。総務省の就業構造基本調査(2022年)では介護離職者が年間10.6万人に上ると報告されており、制度を知らないまま離職して家計を悪化させてしまうケースを避けることが大切です。
| 制度 | 期間・日数 | 給付 |
|---|---|---|
| 介護休業 | 対象家族1人につき通算93日(3回分割可) | 賃金の67%相当(雇用保険) |
| 介護休暇 | 年5日(2人以上は10日) | 事業所により有給/無給 |
| 短時間勤務等 | 連続3年以上で2回以上 | 勤務先制度に準拠 |
介護にかかる費用そのものを下げる方法と組み合わせれば、家計面の不安をさらに抑えやすくなります。介護保険の自己負担軽減や減免制度については、こちらの記事でまとめています。

きょうだい・親族で役割分担を決める
介護負担が同居家族や長男・長女に偏ったままだと、不満が蓄積して親族関係が悪化しがちです。費用・通院付き添い・買い物・見守り・緊急時対応といった役割を一覧化し、誰がどの部分を担当するかを家族会議で決めておくと、介護中の判断スピードも上がります。
遠方に住むきょうだいが直接介護に関わりにくい場合でも、費用負担・通院日の代行手配・緊急時のかけつけ役・連絡係といった形で関わり方を分担できます。話し合いがこじれそうなときは、ケアマネジャーや地域包括支援センターの職員に同席してもらうと、冷静に役割を整理しやすくなります。
在宅介護が限界になる前に施設入居を検討する
在宅介護を続けることが本人と家族の幸せにつながるとは限りません。要介護度が上がる・医療的ケアが必要になる・介護者の体調が崩れる、といった条件が重なった場合は、特別養護老人ホームや介護付き有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅などへの入居検討が現実的な選択肢になります。
施設入居は申込から入居まで待機期間が発生することがあり、限界を迎えてから動き出すと希望条件に合う施設に入りにくくなります。在宅介護を続けながら並行して施設を探しておくことで、いざというときの選択肢を確保できます。施設タイプの違いや選び方は、以下の記事を参考にしてください。

家族で揉めないために決めておくこと
介護が始まると、費用・役割・連絡体制・本人の希望といった論点を「なんとなくの空気」で進めてしまい、後から不満や行き違いに発展しがちです。介護期間は生命保険文化センターの2024年度調査で平均55ヶ月(4年7ヶ月)と報告されており、その期間中に家族関係を維持するには、最初の段階で取り決めを言語化しておくことが欠かせません。
状態を起点に
上限はどうするか
具体的に振り分け
不在時の代理を決める
医療方針の確認
ノートやLINEに残す
ここでは家族会議で決めておきたい5項目を、費用・役割・連絡網・意思決定支援・記録方法の順に整理します。ケアマネジャーや地域包括支援センターの職員に同席を依頼すると、感情的にならず冷静に話し合いやすくなります。
2. 通院・買い物・見守りの担当
3. 緊急時の連絡網と一次対応
4. 本人の希望と意思決定支援
5. 決定事項の記録・共有方法
介護費用を誰がどこまで負担するか
介護費用は生命保険文化センターの2024年度調査で月平均約9.0万円とされ、初期費用を含めると一時的に数十万円単位の出費が発生することもあります。原則として介護費用は本人の年金・預貯金から優先して充てる形が基本ですが、不足分を誰がどの割合で補填するかを最初に決めておかないと、後で「払い続けているのは自分ばかり」という不満が必ず出てきます。
分担方法には、きょうだいで均等に負担する形、収入比に応じて負担する形、同居して介護を担う人の介護労働を金銭換算して相殺する形などがあります。どの方式でも、月々の介護保険自己負担・医療費・おむつ代・施設利用料・介護用品代といった項目ごとに支払い担当を決めておくと、立替や精算のトラブルを防ぎやすくなります。
| 分担方式 | 向いている家族 | 注意点 |
|---|---|---|
| 均等負担 | 収入差が小さいきょうだい | 負担感の差は感情面で残る |
| 収入比例 | 収入差が大きい場合 | 収入の開示と合意が必要 |
| 労働相殺 | 同居介護者が1人いる場合 | 労働時間の記録が必須 |
本人の財産から介護費用を支出する場合は、通帳・印鑑・キャッシュカードの管理者を1人に固定し、出金記録を月単位でまとめて家族へ共有する運用が安全です。判断能力の低下が見られる段階では、成年後見制度や日常生活自立支援事業の利用も検討対象になります。
通院・買い物・見守りを誰が担当するか
日々の介護で発生するタスクは、通院付き添い・薬の受け取り・食料品や日用品の買い物・見守り・服薬確認・入浴介助・夜間対応など多岐にわたります。同居家族1人がすべてを抱え込むと負担が偏るため、別居のきょうだいや親族にも担当できる部分を割り振っておくと、長期にわたる介護を持続しやすくなります。
遠方在住で直接の介護に関われない家族でも、通販で日用品を定期発送する、月1回まとめて買い物を代行する、医療機関への電話連絡を担当する、といった関わり方は可能です。役割を分担表にして家族全員で共有しておけば、「自分だけ何もしていない」「相手がやってくれているはず」といった誤解を減らせます。
- 平日昼の通院付き添いは誰か
- 週末の買い物・食料補充は誰か
- 夜間の見守り・介助は誰か
- 金銭管理・各種手続きは誰か
- 遠方家族の関わり方はどの形か
担当を決めた後も、本人の状態や家族の生活状況は変わっていきます。3ヶ月から半年に1回のペースで分担表を見直し、ケアマネジャーにも共有しておくと、介護プランの調整がスムーズに進みます。
緊急時に誰へ連絡するか
転倒・体調急変・徘徊・火災・災害といった緊急時に、誰がどの順番で連絡を受けるかを決めていないと、初動が遅れて事態を悪化させるおそれがあります。一次連絡先(最初に駆けつける家族)、二次連絡先(一次が動けない場合)、医療機関、ケアマネジャー、地域包括支援センターの連絡先を一覧化しておくのが基本です。
本人の自宅・冷蔵庫の扉・玄関内側など、救急隊や訪問者の目に入る場所に連絡網を貼っておくと、家族が不在の時間帯にも対応が可能になります。本人の名前・生年月日・かかりつけ医・服薬中の薬・既往歴・アレルギーといった医療情報も一緒にまとめておくと、救急搬送時の判断材料になります。
見守り機器や緊急通報サービスを併用すると、家族が常時付き添えない時間帯の安心感を高められます。本人の住む自治体によっては、緊急通報装置の貸与・設置費用補助制度を設けていることもあるため、地域包括支援センターに利用可否を確認すると効率的です。
本人の希望をどう尊重するか
介護の意思決定では、本人不在のまま家族が「最善」と思い込んだ選択を進めてしまいがちですが、本人の意向と乖離した決定は介護拒否や家族不和の原因になります。判断能力が保たれている段階で、住み続けたい場所・在宅と施設のどちらを希望するか・延命治療や終末期の意向・財産の使い道などを聞き取り、家族で共有しておくことが大切です。
厚生労働省は「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」を公表しており、本人・家族・医療介護チームによる繰り返しの話し合い(ACP・人生会議)を推奨しています。ガイドラインに沿った形で意思を確認しておくと、判断能力が低下した後でも本人の希望に近い介護方針を選びやすくなります。
・受けたい医療・受けたくない医療
・終末期の過ごし方
・葬儀や財産についての希望
・キーパーソンに任せたい人
本人が話したがらない場合は、ケアマネジャーやかかりつけ医、地域包括支援センターの職員といった第三者を交えると、本音を引き出しやすくなる傾向があります。話し合いの内容は1回で決め切らず、本人の体調が落ち着いている日に少しずつ確認していくのが現実的です。
決めた内容をメモで残す
口頭で決めた内容は、時間の経過とともに記憶が食い違い、後の家族会議で蒸し返される原因になります。費用負担・役割分担・連絡網・本人の希望といった取り決めは、A4一枚程度の介護メモにまとめて家族全員で共有しておくと、揉めごとの予防効果が高まります。
共有手段は、紙のファイルに加えて家族専用のチャットアプリ・クラウドストレージ・スプレッドシートなどデジタルツールを併用する方法も有効です。受診記録・服薬変更・介護プラン更新といった日々の変化もメモに追記していくと、ケアマネジャーへの状況共有や医療機関への説明に活用できます。
・費用負担と精算ルール
・役割分担表(担当者と頻度)
・緊急連絡網と医療情報
・本人の希望(口頭・書面)
メモは1人だけが保管するのではなく、家族全員がいつでも閲覧できる状態にしておくことが大切です。介護を担う家族が交代したり、急な入院で対応者が変わったりした場合にも、情報の引き継ぎがスムーズに進みます。
介護負担が限界のときに相談できる窓口
介護負担が限界に近づいたときは、家族だけで判断するのではなく、無料で相談できる公的な窓口に状況を伝えることが先決です。相談先によって扱える内容が異なるため、状況に応じて使い分けると解決までの時間を短縮できます。
ここでは介護者が押さえておきたい5つの相談窓口を、地域包括支援センター・担当ケアマネジャー・市区町村窓口・高齢者虐待対応窓口・生活困窮自立支援の順に整理します。いずれも本人を連れていけない段階でも、家族からの相談が可能です。
2. 担当ケアマネジャー(プラン見直し)
3. 市区町村の介護保険・高齢者福祉窓口
4. 高齢者虐待対応窓口(緊急性ある場合)
5. 生活困窮者自立支援窓口(経済面)
地域包括支援センター
地域包括支援センターは、介護・医療・福祉・権利擁護の総合相談窓口として、原則中学校区ごとに設置されています。保健師・社会福祉士・主任ケアマネジャーが在籍し、要介護認定の申請・介護保険サービスの利用案内・高齢者虐待の通報受付・成年後見制度の案内まで幅広く対応します。
相談料は無料で、電話・来所・必要に応じて訪問にも応じます。本人の住所地を管轄するセンターが基本の相談先ですが、別居家族が遠方から相談する場合でも、まずは家族側の住所地のセンターに連絡すれば、本人住所地の窓口や必要なサービスにつないでもらえる仕組みです。
担当ケアマネジャー
すでに介護保険サービスを利用している家庭では、担当ケアマネジャーが最も身近な相談窓口です。サービス内容の追加・回数増・ショートステイの活用・施設入居の検討といったプラン見直しを依頼すると、介護負担を実情に合わせて調整しやすくなります。
ケアマネジャーへの相談は、サービス利用中なら追加費用が発生しません。守秘義務があり、家族内の不和・経済的な事情・本人への接し方の悩みといったセンシティブな話題も伝えて構いません。家族間で話しにくい論点ほど、第三者である専門職を介して整理した方が解決が早くなる傾向があります。
市区町村の介護保険・高齢者福祉窓口
市区町村の介護保険担当課・高齢者福祉担当課は、要介護認定の申請受付、高額介護サービス費の支給申請、負担限度額認定証の交付、住宅改修費の支給申請といった行政手続きの一次窓口です。地域包括支援センターやケアマネジャー経由でも申請できますが、書類記入や交付物の受け取りで直接の来庁が必要になる場合があります。
市区町村独自の支援(介護用品支給・おむつ代助成・配食サービス・徘徊高齢者の見守りシステムなど)を実施している自治体もあります。利用条件は自治体ごとに異なるため、住民票のある市区町村の公式サイト・窓口で「介護をしている家族向けの支援」をまとめて確認しておくと、漏れなく活用しやすくなります。
高齢者虐待対応窓口
介護者が本人に手を上げてしまう、強い言葉で繰り返し叱責する、必要な介助を意図的に行わない、本人の財産を勝手に使うといった状況が起きた場合、または起こりそうな段階では、市区町村の高齢者虐待対応窓口・地域包括支援センターへの相談が必要です。厚生労働省の令和6年度高齢者虐待調査(2025年12月公表)では、養護者による虐待の相談・通報件数が41,814件と12年連続で過去最多を更新しています。
高齢者虐待防止法に基づく窓口は、家族からの相談を「介護者支援」として受け付ける役割も持っています。「自分はもう本人にやさしくできない」と感じた時点で早めに連絡すれば、ショートステイの緊急利用・分離保護・カウンセリングといった支援を組み合わせて、介護者と本人の双方を守る方向で動いてもらえます。
通報や相談をしたからといって、家族がただちに罰せられるわけではありません。早期相談は、介護者を加害者に追い込まないための仕組みとして法律にも位置づけられています。
生活費が苦しい場合の相談窓口
介護離職や医療費・介護費用の増加で家計が苦しくなった場合は、生活困窮者自立支援制度に基づく自立相談支援機関への相談が選択肢になります。各都道府県・市区町村に設置された相談支援機関では、家計改善支援・住居確保給付金・就労準備支援・家計の見直し相談といった支援を組み合わせて利用できます。
本人の資産・年金だけでは介護費用を賄えず、家族による援助も難しい状態が続く場合は、生活保護や施設入居時の生活保護受給についても相談対象になります。介護者自身の家計が破綻する前に、社会福祉協議会の生活福祉資金貸付制度や、市区町村の福祉事務所での相談も視野に入れておくと安心です。
・社会福祉協議会(生活福祉資金貸付)
・福祉事務所(生活保護の相談)
・市区町村の介護保険担当課(自己負担軽減)
・年金事務所(年金見直し・障害年金)
生活保護を受けながら施設入居を続ける選択肢もあります。条件や手続きの流れは、こちらの記事で詳しく解説しています。

統計で見る介護負担の現状
家族介護をめぐる負担は、個別の家庭だけの問題ではなく、社会全体で数値として表れています。厚生労働省・総務省・こども家庭庁が公表する公的統計を確認すると、介護離職・介護者のストレス・高齢者虐待・ヤングケアラーの問題がいずれも深刻な水準で続いていることが分かります。
年度:2022年(令和4年)
年度:令和4年(2022年)
年度:令和6年度
年度:令和3年度
数値を知っておくと、「自分だけが苦しいわけではない」「相談先につながるのは普通のこと」という認識を持ちやすく、早めの行動につなげやすくなります。ここでは4つの代表的な統計を取り上げます。
| テーマ | 数値 | 出典 |
|---|---|---|
| 介護離職者(年間) | 約10.6万人 | 総務省 就業構造基本調査 2022年 |
| 同居主介護者の悩み・ストレス | 60.8% | 厚労省 国民生活基礎調査 令和4年(2022年) |
| 養護者による虐待相談・通報 | 41,814件(12年連続最多) | 厚労省 令和6年度調査(2025年12月公表) |
| ヤングケアラー(中学2年生) | 5.7%(17人に1人) | 厚労省 令和3年度調査 |
介護離職者は年間約10万人規模で発生している
総務省「就業構造基本調査」の2022年結果によると、過去1年間に介護・看護を理由に前職を離職した人は10.6万人に上り、男女別では女性が約7割を占めています。年代は50代・60代が中心で、企業の中核を担う年齢層がキャリアを途中で手放さざるを得ない状況が続いていることが分かります。
離職は短期的に介護に専念できるメリットがある一方、世帯収入の大幅減少・社会保険料負担増・再就職の難しさといった長期的な不利益も伴います。育児・介護休業法に基づく介護休業や介護休暇、短時間勤務制度を使って勤務を続ける選択肢を、離職届を出す前に必ず比較検討することが大切です。
・介護休暇(年5日/2人以上は10日)
・短時間勤務・時差出勤・在宅勤務制度
・地域包括支援センター・ケアマネジャーへの相談
同居介護者の多くが悩みやストレスを抱えている
厚生労働省「国民生活基礎調査」の令和4年(2022年)時点の結果では、同居している主な介護者のうち日常生活で悩みやストレスを抱えていると回答した人は60.8%に上りました。男女別では女性が68.6%、男性が51.1%で、いずれも半数以上が負担を自覚している状況です。
悩みの内容は「家族の病気や介護」が最も多く、次いで「自分の健康」「収入・家計・借金等」が続きます。介護そのものに加えて、介護者自身の健康悪化や経済的な圧迫が同時に進むことが、悩みを複合化させる要因と読み取れます。なお民間調査によれば、介護者のおよそ3割が抑うつ状態に該当するという報告もあり、心身両面の負担に早めに気づくことが重要です。
高齢者虐待の相談・通報件数も増えている
厚生労働省が2025年12月に公表した令和6年度「高齢者虐待防止法に基づく対応状況等に関する調査結果」では、養護者(家族など)による高齢者虐待の相談・通報件数は41,814件と12年連続で過去最多を更新し、虐待と判断された件数も17,133件に達しました。前年度実績では虐待者の続柄は息子が約4割で最多、夫・娘がこれに続き、同居家族が大半を占めています。
これらの数値は「特別な家庭で起きている問題」ではなく、長期間にわたり1人で介護を抱え込んだ末に限界点で起きるケースが多いことを示しています。手を上げてしまった経験や、近い未来にそうなりそうだという自覚がある段階で、地域包括支援センターや市区町村の高齢者虐待対応窓口へ相談することが、本人と介護者双方の安全を守ります。
ヤングケアラーの問題も見過ごせない
厚生労働省の令和3年度実態調査では、家族の世話をしている中学2年生の割合は5.7%と報告されており、おおむね17人に1人がヤングケアラーに該当します。世話の対象は祖父母・親・きょうだいなど多様で、家事・身体介護・通院付き添い・通訳・金銭管理にまで及ぶケースもあり、学業や進路に影響が及ぶ事例も少なくありません。
祖父母の介護を孫世代が担うケースは、家族の人手不足や経済的事情を背景に静かに進行しがちです。こども家庭庁ではヤングケアラー支援の体制整備を進めており、市区町村のヤングケアラー・コーディネーターや学校のスクールソーシャルワーカー、児童相談所などが相談先となります。家族の中に18歳未満で介護に関わっている人がいる場合は、子ども自身が抱え込まないよう、早めに支援につなぐことが必要です。
・厚労省「国民生活基礎調査」令和4年(mhlw.go.jp)
・厚労省「高齢者虐待防止法に基づく対応状況等調査」令和6年度
・厚労省・こども家庭庁「ヤングケアラー実態調査」令和3年度
・生命保険文化センター「2024年度生命保険に関する全国実態調査」
介護による家族崩壊は早めの相談と役割分担で防ぐ
介護による家族崩壊は、特別な家庭で起きる出来事ではなく、長期間1人で抱え込んだ家庭で誰にでも起こりうる現象です。家族崩壊を防ぐ鍵は、限界を迎える前に外部サービスを使うこと、介護者1人に負担を集中させないこと、困ったときは地域包括支援センターやケアマネジャーに相談することの3点に集約されます。
限界を感じる前に外部サービスを使う
デイサービス・ショートステイ・訪問介護といった介護保険サービスは、介護者の休息時間を確保するための仕組みでもあります。要介護度が軽いうちから組み合わせて利用しておくと、状態が進行したときの選択肢も広がります。
介護者だけに負担を集中させない
費用・通院付き添い・買い物・見守り・緊急時対応・本人の意思確認といった役割を一覧化し、きょうだいや親族で分担表を作っておくと、不満や行き違いを減らせます。決めた内容はメモに残し、半年ごとに見直すと持続しやすくなります。
困ったときは地域包括支援センターやケアマネジャーに相談する
地域包括支援センターは介護保険サービス利用前の家族でも無料で相談でき、ケアマネジャーは利用中の家庭でプラン見直しを担います。経済面の悩みは生活困窮者自立支援、安全面の悩みは高齢者虐待対応窓口と、相談先を組み合わせれば、介護者と本人の双方を守る方向に動いていきます。
2. デイサービス・ショートステイで休息確保
3. 家族で費用と役割を取り決め・記録
4. 介護休業・介護休暇で離職を回避
5. 在宅が厳しくなる前に施設入居を検討
在宅介護を続ける場合の安心材料として、見守りサービスを併用する方法もあります。離れて暮らす家族の見守り体制の作り方は、こちらの記事を参考にしてください。

