両親の介護をしている人にとって、介護施設にかかる費用の負担は大きいといえるでしょう。
老人ホームへの入居は、サービスによっては高額の費用がかかります。
介護が長期化したり、サービスの利用頻度が高まったりするほど、家族には経済的な負担がのしかかります。
そういったお金の負担を少しでも軽くするための制度が用意されていても、「そんな制度があるなんて知らなかった」という人は少なくありません。
介護費用を減額できる制度を知っておくと、費用負担を減らしたうえで、ストレスなく介護を進められます
介護費用は本人の貯金と年金から支払う
介護費用は原則、本人の年金から支払います。
厚生労働省の2019年、国民生活基礎調査によると介護費用は親本人の収入や貯蓄を充てている場合が大多数を占め、年金だけでは不足する場合は子どもや配偶者などの家族が負担します。
介護にかかる費用は親の経済状況や希望する介護スタイルにもよりますし、親の介護は子供が負う義務があるので、親の介護費用を負担する可能性があることを今のうちから意識しておきましょう。
ただし、無理な支援は長続きしないのを忘れてはいけません。
在宅介護と施設介護の費用相場をある程度知っておく
介護費用の相場を知っておき、貯金額や年金受給額と照らし合わせることで必要な介護サービス、介護の手法を理解できます。
生命保険文化センターによると、在宅介護の月額費用の平均は7〜8万円です。
施設介護の場合は入居する施設によって、月額費用に開きがあります。
有料老人ホーム、グループホーム、サービス付き高齢者向け住宅など施設種別ごとに金額が違います。
ほとんどの場合は在宅介護に比べて高めの金額が必要です。
在宅介護の場合は老人ホームと比較してお金の負担は少ないですが、介護のためにかかる肉体的・精神的負担が大きくなります。
在宅介護の場合は、在宅向けの介護サービスの活用を視野に入れて無理のない介護を心がけましょう。
在宅介護の場合でも、サービスを取り入れるほど金銭面での負担は増えます。
そこで介護費用の減額制度でを利用しながら上手に進めることをおすすめします。
なぜ介護費用には減額制度が設けられているのか
介護費用の減額制度とは、社会全体で高齢者を支えるための仕組みの1つです。
高齢化の進展に伴う要介護高齢者の増加や、核家族化の進行など要介護者を支えてきた家族をめぐる状況の変化に対応するため、社会全体で高齢者介護を支える仕組みとして、2000(平成12)年 4 月に介護保険制度が創設されました。
介護保険制度の創設以来、介護サービスの利用者は在宅サービスを中心に倍増し、老後の安心を支える仕組みとして、広く定着してきました。
今後、さらなる少子高齢社会を迎える中で、制度の持続可能性を確保していくことが大きな課題となっています。
高齢化が進展し、認知症高齢者や一人暮らし高齢者が増加する中で、介護を必要とする高齢者ができる限り住み慣れた地域で自立して生活を送れるよう、
- 介護サービス
- 訪問診療や訪問看護などの医療的なケア
- 見守り・配食・緊急時対応といった生活支援サービス
- 住まいの確保を含めた多様なサービスを包括して提供する地域包括ケアシステム
の構築の取組みを進めています。
【地域包括ケアの四つの視点による取組み】
地域包括ケアを実現するためには、次の 4 つの視点での取組みが包括的(利用者のニーズに応じた①~④の適切な組み合わせによるサービス提供)、継続的(入院、退院、在宅復帰を通じて切れ目ないサービス提供)に行われることが必須。
- ①医療との連携強化
-
24 時間対応の在宅医療、訪問看護やリハビリテーションの充実強化。
- ②介護サービスの充実強化
-
- 特養などの介護拠点の緊急整備(平成 21 年度補正予算:3 年間で 16 万人分確保)
- 24 時間対応の在宅サービスの強化
- ③見守り、配食、買い物など、多様な生活支援サービスの確保や権利擁護
-
一人暮らし、高齢夫婦のみ世帯の増加、認知症の増加を踏まえ、様々な生活支援(見守り、配食などの生活支援や財産管理などの権利擁護サービス)サービスを推進。
- ④高齢期になっても住み続けることのできるバリアフリーの高齢者住宅の整備
-
- 高齢者専用賃貸住宅と生活支援拠点の一体的整備
- 持ち家のバリアフリー化の推進
介護は医療と同じく高齢者が生きるうえで必要です。まして今は超高齢化社会。
より高齢者の健康な生活を守ることが求められています。
民間による介護保険も利用できる
要介護認定を受けると公的な介護保険を利用できます。
介護保険を使うことで1~3割の自己負担額で介護サービスを受けられます。
介護保険には民間が販売している商品もあります。掛け金を調整することも可能。公的な介護保険と組み合わせて使うこともできます。
万が一のときに備えやすい「貯蓄型」は資産運用にも役立つ
万が一のときに備えたい人や、保険料を積み立てて資産形成をしたい人には「貯蓄型」がおすすめです。保険料の一部を保険会社が積み立ててくれるため、解約時や満期のときに返戻金としてお金を受け取れます。
また、年金保険や死亡保険など、ほかの保険とセットになったプランも。急に介護が必要になったり、病気で亡くなったりなど、万が一の事態に備えられる点も特徴です。
ただし、中途解約するときは、支払った保険料よりも返戻金が少なくなる可能性には要注意。
掛け捨て型に比べて保険料は高額な傾向にありますが、死亡保障も重視したいという人にはおすすめです。
保険料を抑えたいなら「掛け捨て型」がおすすめ
保険料を抑えたい人には、掛け捨て型がおすすめ。
満期・解約での払戻金がないため、貯蓄型に比べて安いのが特徴です。すでに死亡保険に加入しており、介護保険の用意だけしておきたい人にも向いています。
ただし、所定の要介護状態にならなければ、給付が受けられない点には注意しましょう。
また、一定期間で保障が終わる保険が多い傾向にあるため、あくまでも介護保険のみでよいと考えている人の選択肢として適しています。
介護の費用を公的制度でカバーする方法一覧
介護の費用をカバーするために、介護サービス費や医療費の軽減に使える公的な制度について一覧で紹介します。
世帯分離
世帯分離は同居しながらも、住民票を別々にすることを指します。
介護サービスの自己負担額などは「世帯あたりの所得」を基準として計算されます。
世帯分離によって介護費用や国民健康保険の費用負担を減らせるケースがあるほか、後期高齢者医療制度保険料も下がるケースもあります。
介護費用の負担を減らせる
介護保険制度では、介護費用の自己負担割合が世帯の合計所得金額に応じて1割・2割・3割と区分されています。
年金収入とそれ以外の所得の合計が多いほど自己負担割合も増えます。
同一世帯時には介護保険の自己負担割合が3割だった人が、世帯分離によって収入が年金のみとなり1割負担となることもあり得るのです。
国民健康保険料の負担を減らせる
国民健康保険料は「前年の所得」と「被保険者の人数」によって決まります。
保険料率は年度によっても変わってくるため、一概にいくら軽減できるとはいえませんが、世帯分離によって負担をおさえられる可能性があります。
自治体によってはウェブサイトで国民健康保険料のシミュレータを用意している場合もあります。
ただし、こうしたシミュレータで算出される額がそのまま国民健康保険料となるわけではないので注意しましょう。
後期高齢者医療制度保険料の負担を減らせる
医療を1割負担(現役並み所得者は3割)で受けられる後期高齢者医療制度。
その原資となる保険料を、世帯分離によって軽減できる可能性があります。
世帯分離によって住民票上「一人暮らし」となった世帯では、年金とその他の所得の合計が43万円以下で7割軽減、71万5000円以下で5割軽減、95万円以下で2割軽減となる場合があります。
- 要介護者である親世代の収入が高い人
- 1世帯で2人以上の介護サービスを受けている場合
- 会社員の子が親を扶養家族にいれている
高額介護サービス費
1カ月に自己負担する介護サービス利用料には、所得区分に応じて限度額が決まっています。
その限度額を超えると、超えた分は申請により払い戻し(高額介護サービス費)を受けることができます。
同じ世帯に複数のサービス利用者がいる場合には原則、世帯の自己負担合計額でみます。
2021(令和3)年8月から高額介護サービス費の所得基準・負担限度額が改正されました。
該当する方には自治体から郵送で申請書が届きます。
- 福祉用具購入費や住宅改修費の1~3割負担分
- 施設サービスの食費、居住費や日常生活費
- 介護保険の給付対象外の利用者負担分
- 支給限度額を超え、全額自己負担となる利用者負担分
高額療養費
高齢になると、介護だけでなく医療にかかる費用も増加する傾向にあります。
高額療養費制度は、医療機関や薬局で支払う医療費の1カ月あたりの上限額を定めた制度です。
超過した金額は、医療保険から後日払い戻しされます。
上限額は、年齢と所得によって異なります。
特に70歳以上の方の上限額については、2018年8月診療分から変更されています。
高額療養費は、加入している医療保険に申請することで支給が可能です。
なお1つの医療機関で多額の支払いが発生する場合は、自治体から交付される「限度額適用認定証」を手配しておくことで窓口での支払いを軽減できるケースもあります。
高額医療・高額介護合算療養費
高額療養費が医療費だけに限った制度であるのに対し、高額医療・高額介護合算療養費は医療費と介護サービス費の両方を対象とした制度です。
医療費と介護サービス費の合計が年間の上限額を上回ったら、費用の支給を受けられます。
先述したように介護サービス費には「高額介護サービス費」、医療費には「高額療養費」と、それぞれ月々の負担を軽減する制度があります。
それらの制度を活用しても、なお負担が大きい場合に役立つ制度です。
上限額の基準は、高額療養費と同様に年齢と所得で異なります。ただし1カ月あたりではなく年間の費用で計算する点で異なります。
高額医療・高額介護合算療養費は、加入している医療保険に申請します。
保険証や証明書などが必要になることもあります。
区分(70歳未満の場合) | 負担の上限額 |
---|---|
年収1,160万円以上 | 212万円 |
年収770万円以上1,160万円未満 | 141万円 |
年収370万円以上770万円未満 | 67万円 |
年収165万円以上370万円未満 | 60万円 |
住民税非課税世帯 | 34万円 |
区分(70歳以上の場合) | 負担の上限額 |
---|---|
年収1,160万円以上 | 212万円 |
年収770万円以上1,160万円未満 | 141万円 |
年収370万円以上770万円未満 | 67万円 |
年収165万円以上370万円未満 | 56万円 |
住民税非課税世帯 | 31万円 |
住民税非課税世帯(一定額以下) | 19万円 |
特定入所者介護サービス費(負担限度額認定)
介護保険施設に入所する際の食費と居住費を軽減できる制度です。
介護保険施設とは
- 特別養護老人ホーム(特養)
- 介護老人保健施設(老健)
- 介護療養型医療施設
- 介護医療院
の4種類となります。
長期的な入所だけでなく、ショートステイ(短期入所生活介護、短期入所療養介護)も対象です。
負担額は、所得などの条件によって4段階に分かれています。
所得の状況 | 預貯金等の資産の状況 | |
---|---|---|
第1段階 | ・世帯全員が住民税非課税の人で、老齢福祉年金受給者の人 ・生活保護を受給されている人 | 単身:1,000万円以下 夫婦:2,000万円以下 |
第2段階 | ・世帯全員が住民税非課税で、本人の合計所得金額と 課税年金収入額と非課税年金収入額の合計が年額80万円以下の人 | 単身:650万円以下 夫婦:1,650万円以下 |
第3段階(1) | ・世帯全員が住民税非課税で、本人の合計所得金額と 課税年金収入額と非課税年金収入額の合計が年額80万円を超え120万円以下の人 | 単身:550万円以下 夫婦:1,550万円以下 |
第3段階(2) | ・世帯全員が住民税非課税で、本人の合計所得金額と 課税年金収入額と非課税年金収入額の合計が年額120万円を超える人 | 単身:500万円以下 夫婦:1,500万円以下 |
第4段階 | 上記以外の人(※4) |
特定入所者介護サービス費は、介護保険の負担限度額認定を受けることで利用できます。
負担限度額の認定は自治体の窓口で受け付けています。
>>介護保険負担限度額認定証を受ける条件と注意点を分かりやすく説明
医療費控除
1年間で支払った医療費が10万円を超える場合に、所得控除を受けられる税制上の制度です。
自分だけでなく、生計を共にする家族にかかった医療費を合算できます。
医療費として計算できるのは、健康保険などでまかなわれる金額を除いた自己負担額のみです。
医療費控除の対象となる介護保険サービスは、大きく3つに分けられます。
- 居宅サービス:
自宅において受けられる医療系サービス。訪問介護や訪問リハビリステーションなど。 - 施設サービス:
介護施設に入所して受ける介護サービス。介護サービス費、食費、居住費が対象。 - 交通費、おむつ代:
介護サービスを受けるための電車・バスなどの公共交通機関の費用。おむつ代は「6カ月以上寝たきり」の場合に適用。
訪問入浴介護のように、「福祉系サービス」に該当するものは、単体では医療費控除の対象となりませんが、医療系サービスである居宅サービスと併用することで、医療費控除の対象となるサービスもあります。
医療費控除を受けるためには「医療費控除の明細書」を準備したうえで確定申告が必要です。
また、領収書は自宅で5年間保管するように決まっていますので、残しておきましょう。
障害者控除
障害者控除も所得控除を受けられる制度の1つです。
納税している本人や扶養親族が障害者と認められたら対象となります。
介護が必要な方は障害者にあたるかどうかの基準は、自治体ごとに定められています。
要介護認定を受けていれば該当するケースも多数ありますので、お住まいの自治体の情報を確認してみましょう。
制度を活用することで介護費用を軽減できる
今回は、介護にかかる費用の負担を軽減できる制度について紹介しました。
介護が始まるとさまざまなサービスを利用したり介護用品を用意したりと、費用がかかります。
介護が急に始まってしまい満足に準備できない可能性もあります。
今回紹介した制度を利用するためには、必要な手続きを理解しておくことが重要です。
「着実に手続きが進められるか不安・・」という方は、地域包括支援センターや市区町村の介護保険課、ケアマネジャーに相談すると、詳しく教えてくれるので安心です。
これらの制度は、利用者の日常生活を支援するだけでなく、家族にとっても、介護負担や費用の軽減に繋がります。
正しい知識を得て有効に活用しましょう。