「入居一時金」とは、民間の有料老人ホームなどに入居する際に、月額利用料とは別に最初に数年分の月額費用をまとめて支払う前払金のことです。
ケアハウスやサ高住など民間の高齢者施設でも入居一時金を設定しています。
その内容は、家賃とサービス対価の前払いです。
入居一時金の金額は、施設によって数十万円から数千万円とかなりの幅があります。
想定される入居者の入居期間から金額が決まっているため、入居時の年齢が若いほど余命が長い分、高く設定されています。
- 生涯、その施設に居住し続けることを前提に、想定居住期間の家賃を一括で支払う方法
- 想定居住期間を超えても追加の支払いがない
- 期間内に退去したり亡くなった場合は、契約書に基づいた返還計算により未償却分は返還される
入居一時金の「償却」と「返還金」とは
想定される入居期間に応じて入居一時金を消費することを「償却」といいます。
そのうち、入居と同時に一定の割合を償却することが「初期償却」です。
入居一時金からはまず初期償却分が差し引かれ、残りの金額は想定される入居期間内に毎月償却していきます。
初期償却率は20〜40%、償却期間は5〜7年くらいのところが多くなっています。
初期償却率の割合や償却期間は施設によって異なるので事前に確認が必要となります。
◆入居一時金の返還についての考え方
- 入居一時金:500万円
- 償却期間:60ヶ月(5年間)
- 初期償却率:20%(100万円)
償却額は月単位のため80万円÷12ヶ月=6.6万円ずつ毎月焼却されます。
この条件で2年10ヶ月で退去した場合の返還額
500万円×(1−20%)×(5年間−2年10ヶ月)÷5年=1,733,333円
およそ173万円が返還されます。
早く退去すると損・長く居住すると得になる
上記のグラフのように、入居時に一部を「初期償却」、残りの金額が「償却年数」で少しずつ償却されていきます。
償却年数が残っている途中に退去したり、亡くなったりした場合、未償却金が返還されることになります。
一時金方式と月払い式のどちらが得なのかと言う話題になることがあります。
一時金を支払うケースでは実際のところ「早く退去すると損、長く居住すると得」という面は否めません。
初期償却への対応は、行政ごとに異なるので入居を検討する際は必ず確認しましょう。
入居一時金の償却について3つのチェックポイント
入居一時金は、利用者があらかじめ老人ホームに対してお金を預けておく「前払い金」の性質を持ちます。
もし全額償却される前に退去することになったら、未償却分を返還してもらえますが、償却期間や初期償却率は施設によって異なってくるため注意が必要です。
入居一時金の「償却」に関するチェックポイントは以下の3つです。
- 償却期間の長さ
- 初期償却される金額
- 償却方法について
償却期間の長さ
入居一時金の償却期間は、介護付き有料老人ホームは短めで、住宅型・健康型有料老人ホームは長めとなる傾向にあります。
平均年数で「介護付き」では5年前後、「住宅型」や「健康型」では15年前後に設定されているケースが多く見受けられます。
実際の償却期間の設定は各施設が自由に決定できるので、重要事項説明書で事前にチェックしておきましょう。
初期償却される金額
老人ホームの中には、「初期償却」という形で入居時に入居一時金を一気に償却するところもあります。
この場合、入居後すぐに退去したとしても初期償却分は返還されません。
初期償却は事実上、施設側の利益確保分の金額ともいえます。
初期償却として差し引かれる割合には統一された基準はありません。
施設によって0~30%とバラツキがあるので、事前に確認しておきましょう。
償却方法について
入居一時金の償却方法には、「定額償却」と「定率償却」の2種類があります。
定額償却は月割りで一定の金額を償却していく方法で、定率償却は所定の期限ごとに同率の金額を償却していく方法です。
年間の償却額でいうと定額償却の方が少なく、早めに退去する場合より多くの金額が返還される傾向にあります。
入居一時金でトラブルにならないために
老人ホームの退去時にもっともトラブルが発生しやすいのは、入居一時金の返還についてです。
- 入居後すぐに退去せざるを得なくなり解約したが、入居金が返還されない
- 入居している有料老人ホームが経営悪化で倒産したため入居金が返還されない
- 入居金が返還されても初期償却費の設定が高く、事業者側の取り分が多額で、入居者にはわずかしか戻ってこない
入居一時金のトラブルにあってしまったら
入居金一時金のトラブルを減らすための施策として、平成24年4月施行の改正老人福祉法で短期解約特例制度(クーリングオフ制度)の規定ができました。
クーリングオフ制度によって、入居契約から90日以内に契約解消した場合は、入居一時金は全額返還されます。
ただし、クーリングオフの対象となる範囲が都道府県によって多少異なります。
また、それまでの施設利用料や介護サービス費用などは差し引かれます。
差し引く費用もホームによってさまざまですから、クーリングオフについての説明も受けておきましょう。
入居一時金に関して、もう一つ注意したいことは、入居者から受け取った入居一時金の保全措置がしっかりとなされているかどうかです。
2006年4月1日以降に新設された有料老人ホームでは、従来から入居一時金などの前払金の保全措置が義務化されていましたが、それ以前に設立されたホームは努力義務となっているだけでした。
そこで、入居者保護のための施策として、2018年4月の介護保険法の改正で、2006年3月31日以前に新設された有料老人ホームも前払い金の保全措置が義務化されました。
トラブルを未然に防ぐために
入居一時金についての条件は施設によって違いがあり、契約の際にもらう重要事項説明書に記載されています。
契約をする前にどんなルールで入居一時金が回収、返金されるのかを確かめておきましょう。
分かりにくい点がある制度ですので施設側に3年後に退居したらいくら返ってくるのか、10年後ならいくらかと、シミュレーションを表にしてもらうと良いでしょう。
トラブルを未然に防ぐためには、契約時に入居金や返還金の内容を理解することが重要です。
こうした点を事前にしっかりとチェックしておけば、情報の行き違いがなくトラブルを防ぎやすいです。