老人ホームの入居一時金は退去時にいくら戻る?
結論からお伝えすると、入居一時金が退去時に全額戻ってくるケースはほとんどありません。返ってくる金額は、契約書に書かれた「初期償却」と「入居期間」の2つで決まり、決まった年数を過ぎると返金がゼロになる契約もあります。
初期償却分が控除
少しずつ減っていく
返金は0になる
同じ1,000万円の入居一時金でも、半年で退去した場合と5年住んでから退去した場合では、戻ってくる金額がまったく違います。まずは「全額は戻らない」という前提を押さえたうえで、なぜそうなるのかを順番に見ていきます。
入居一時金は全額戻るとは限らない
入居一時金は、毎月の家賃やサービス費の一部を、入居時に一括で前払いしているイメージのお金です。住んだ期間の分はすでに使われた費用と扱われるため、退去のタイミングで全額がそのまま戻るわけではありません。
たとえば1,000万円の入居一時金で「初期償却20%・償却期間5年」という契約だった場合、入居した瞬間に200万円が差し引かれ、残り800万円が5年かけて少しずつ減っていく形になります。1年で退去すれば、戻るのは概算で640万円ほど。3年住んでから退去すれば320万円ほどに減ります。
- 入居一時金は家賃などの前払いとして扱われる
- 住んだ期間の分は返金対象から差し引かれる
- 同じ金額でも契約条件によって返金額は大きく変わる
- 「全額戻る」と書かれた施設はまずないと考えてよい
「戻るお金は契約書を見ないと分からない」というのが正直なところです。施設の担当者の口頭説明だけで判断せず、必ず契約書と重要事項説明書の数字を見て確認することが、後悔しない第一歩になります。
返金額は「初期償却」と「入居期間」で決まる
退去時に戻ってくる金額は、大まかに次の式で計算されます。
この式に出てくる「初期償却」とは、入居した時点で一括して差し引かれる金額のこと。一方の「入居期間」は、その後どれくらい住んだかで決まる、追加で差し引かれる部分です。初期償却率は10〜30%、償却期間は5〜10年あたりが相場とされていますが、施設や契約によって大きく開きがあります(出典:LIFULL介護・安心介護紹介センター 他)。
つまり、同じ金額の一時金を払っても「初期償却が高くて期間が短い契約」と「初期償却が低くて期間が長い契約」では、退去のタイミング次第で返金額が数百万円単位で変わります。契約書を見るときは、この2つの数字をセットで確認する必要があります。
償却期間を過ぎると返金がゼロになることもある
償却期間とは、入居一時金が少しずつ減っていく年数のこと。この期間を過ぎると、入居一時金は契約上「すべて使い切られた」と扱われ、退去時の返金がゼロになる契約が一般的です。
たとえば償却期間が5年の契約で、6年目以降に退去した場合、返金は基本的に発生しません。ただし、その後も住み続けている間は追加の入居一時金を求められないことが多く、「想定居住期間より長く住むほど月あたりの実質負担は下がる」設計になっています。
気をつけたいのは、想定より早く退去せざるを得なくなったときです。体調の悪化で医療体制の整った施設に移る、家族の事情で別の地域に引っ越すといった事情で、入居から数年で退去するケースは少なくありません。償却期間と実際に住める期間にズレが出ると、返金額が想定より大きく減ることがあります。
入居一時金とは?何のために支払う費用?
入居一時金は、有料老人ホームなどに入るときに、月々の利用料とは別にまとまった金額を最初に支払うお金です。金額は施設によって大きく違い、数十万円のところから数千万円規模のところまで存在します。何のために支払うのか、なぜ施設ごとに金額がここまで違うのかを順番に見ていきます。
家賃やサービス費を前払いする費用
入居一時金は、入居者がその施設に住む間に支払う家賃や共用施設の利用料、サービス費の一部を、入居時にまとめて前払いしているイメージのお金です。月々の利用料を抑えるかわりに、最初にある程度の金額を払っておく仕組みになっています。
厚生労働省の「有料老人ホーム設置運営標準指導指針」でも、前払金は終身にわたって受領すべき家賃またはサービス費用の全部または一部を一括して受領する方式と位置づけられています。償却年数は、入居者の終身にわたる居住が平均的な余命等を勘案して想定される期間(想定居住期間)を基礎にするとされています。
同じ施設でも「入居一時金あり」と「一時金なし(月額に上乗せ)」の両プランを用意しているところは多くあります。長く住む見込みなら一時金ありの方が月々の負担は軽くなりやすく、短期で退去する可能性があるなら一時金なしの方が無理がない、というのが基本的な考え方です。
施設ごとに金額や返金ルールが異なる
入居一時金の金額は本当に幅広く、10万円程度の施設から数千万円規模の施設まで存在します。立地、建物の新しさ、提供されるサービスの内容、医療体制、居室の広さなどで大きく変わるためです。
- 都市部・新築・手厚いサービスの施設ほど高くなる傾向がある
- 住宅型・健康型は償却期間が長め、介護付きは短めに設定されることがある
- 同じ法人でも、施設・居室タイプごとに金額と返金ルールが違うことがある
- パンフレットの金額と契約書の金額が一致しているか必ず確認する
返金ルールも施設ごとにバラバラです。初期償却率や償却期間の数字はもちろん、退去時の修繕費や清掃費を返金額から差し引くかどうかも契約ごとに違います。「相場通りだろう」と推測で判断せず、必ず手元の契約書の条文を確認することが必要です。
契約書に返金ルールを明記することが義務づけられている
有料老人ホームの入居一時金は、運営事業者の裁量だけで自由に決められるわけではありません。老人福祉法第29条で、前払金の算定根拠を書面で示すことや、入居後一定期間内に契約解除があった場合の返還ルール、保全措置を講じることが事業者に義務づけられています。
具体的には、入居契約書および重要事項説明書に、前払金の算定基礎、初期償却の有無と割合、償却期間、返還金の算定方法、保全措置の内容などを記載する必要があります。これは厚生労働省の「有料老人ホーム設置運営標準指導指針」(令和6年改正)でも明文化されています。
保全措置についても、運営法人が倒産した場合などに備え、銀行による債務保証や保険契約、信託契約などの方法で、未償却分または500万円のいずれか低い額を上限として返還が確保される仕組みになっています(老人福祉法第29条第6項)。高額な入居一時金を払っても、保全されるのはあくまでこの上限額までという点には注意が必要です。
契約形態(利用権方式・建物賃貸借方式など)によっても、入居一時金の扱いや退去時の返金ルールは変わってきます。どの契約形態を選ぶかで、住み続ける権利の強さや退去時の精算方法に違いが出るため、入居一時金の金額だけでなく契約形態もあわせて確認することが大切です。契約形態の違いは本サイトの別記事で詳しく解説しています。

入居一時金が減っていく「償却」の仕組み
入居一時金は、入居した瞬間から少しずつ減っていきます。この減り方を決めているのが「償却」のルールです。償却には大きく分けて、入居時に一気に差し引かれる「初期償却」と、住んだ期間に応じて少しずつ差し引かれる「期間償却」の2種類があります。
入居時に一定額が差し引かれる「初期償却」
初期償却とは、入居した時点で入居一時金から一括で差し引かれる金額のことです。入居一時金の10〜30%あたりを初期償却とする施設が多いとされています(出典:安心介護紹介センター・LIFULL介護 他)。
たとえば入居一時金が1,000万円で、初期償却率が20%の契約だった場合、入居した瞬間に200万円が差し引かれ、残りの800万円がその後の期間償却の対象になります。極端な話、入居から1か月で退去した場合でも、この200万円は基本的に戻ってきません。
● 初期償却率10% → 入居時に100万円が差し引かれる
● 初期償却率20% → 入居時に200万円が差し引かれる
● 初期償却率30% → 入居時に300万円が差し引かれる
初期償却率が高い契約は、見かけ上の入居一時金が割安に設定されていることがあります。月額利用料が安いプランで初期償却率が高めになっているケースもあるため、「初期償却率が低い=必ず得」とは言えません。総額で比較する目線が必要です。
入居期間に応じて少しずつ差し引かれる「期間償却」
期間償却とは、初期償却で差し引かれた残りの金額を、決められた年数で少しずつ取り崩していく仕組みです。償却期間は5〜10年あたりを設定する施設が多いとされ、介護付き有料老人ホームは短め、住宅型や健康型は長めになる傾向があります。
たとえば入居一時金1,000万円・初期償却率20%・償却期間5年の契約なら、初期償却の200万円を引いた残り800万円を、5年(60か月)で割って取り崩していくイメージです。月あたり約13.3万円ずつ減っていき、5年経過した時点で残額はゼロになります。
償却期間は、厚生労働省の指針で「想定居住期間」を基礎にすると定められています。想定居住期間より長く住んだ場合でも、すでに償却が終わっているため追加の入居一時金を求められないのが原則です。逆に、想定居住期間より短く退去した場合は、残っている未償却分が返金の対象になります。
月割・日割の違いで返金額が変わる
期間償却の計算方法は、施設によって「月割」と「日割」のどちらかが採用されています。一見、小さな違いに見えますが、退去のタイミングによっては返金額に数万円〜十数万円の差が出ることがあります。
| 計算方式 | 償却の単位 | 退去日の扱い |
|---|---|---|
| 月割 | 1か月単位で償却 | 月の途中で退去しても、その月は1か月分が償却される契約が多い |
| 日割 | 1日単位で償却 | 退去日までの日数分のみが償却されるため、月割より返金が増える場合がある |
たとえば月初に退去するか月末に退去するかで、月割計算では返金額が変わらない一方、日割計算では数日分の差がそのまま反映されます。退去の時期をある程度コントロールできる状況なら、契約書で計算方式を確認したうえで、返金額が有利になるタイミングを選ぶことも可能です。
また、退去日の決め方も契約書ごとに違います。「退去届を出した日」「実際に部屋を明け渡した日」「居室の原状回復が完了した日」のどれを退去日とするかで、最終的な返金額が変わることがあります。退去時に揉めないよう、契約段階で退去日の定義を確認しておくことが、無用なトラブルを防ぐポイントになります。
退去時に戻る金額の計算方法
退去時に戻ってくる金額は、契約書に書かれた数字を当てはめれば、自分でも概算を出すことができます。ここでは基本となる計算式と、その中身を構成する2つの差し引き要素を順番に見ていきます。
(例:30%)
× 経過月数 ÷ 償却月数
返金額を求める基本の計算式
退去時に戻ってくる金額は、おおまかに次の式で求められます。入居一時金からまず初期償却額を引き、残った金額のうち入居期間で消化された分をさらに差し引くという2段階の構造です。
同じ式でも、施設によっては「日割り」「月割り」「年単位」など期間の刻み方が異なります。重要事項説明書に必ず計算式が記載されているため、自分の契約ではどの単位で償却が進むのかを確認することが第一歩になります(出典:全国有料老人ホーム協会 重要事項説明書ひな型)。
この式の特徴は、入居期間がゼロでも初期償却の分は必ず差し引かれる点と、入居月数が償却期間の月数を超えた瞬間に返金がゼロになる点の2つです。短期退去でも長期入居でも、契約に書かれた数字が結果を機械的に決めるため、感覚で見積もると実際の振込額と数十万円〜数百万円の差が出ることがあります。
初期償却額を差し引く
初期償却額は、入居一時金に「初期償却率」を掛けて算出します。たとえば入居一時金が1,000万円で初期償却率が20%なら、入居した瞬間に200万円が差し引かれ、残りの800万円が以降の計算対象となります。
初期償却率は施設によって幅があり、0〜30%の範囲で設定されているケースが多いとされています(出典:LIFULL介護・安心介護紹介センター)。初期償却率が高い契約は、入居直後に退去した場合の返金額が大きく目減りする点に注意が必要です。
同じ入居一時金1,000万円の契約でも、初期償却率が10%なら入居直後の差し引きは100万円、30%なら300万円と、入居初日の時点で200万円の差が生じます。「初期償却なし」を打ち出している施設も増えており、入居後すぐに退去するリスクが気になる場合は、初期償却率の低さを優先する考え方もあります。
入居期間に応じた償却額を差し引く
初期償却を引いたあとの金額は、入居期間に応じて少しずつ減っていきます。償却期間を月数に換算し、実際に住んだ月数の分だけ消化されたとみなす計算です。
たとえば残額が800万円・償却期間が5年(60か月)の契約で、入居から12か月で退去した場合、期間償却額は「800万円 × 12 ÷ 60」で160万円。返金見込みは「800万円 - 160万円」で640万円という計算になります。償却期間が長いほど月あたりの目減りはゆるやかになり、短いほど急速に減っていく仕組みです。
実際の返金額は契約書の計算式で確認する
ここで紹介した式はあくまで一般的な考え方で、実際の返金額は契約書に記載された計算式と数字によって決まります。施設によっては、利息相当分の控除や、原状回復費用の差し引きなど、独自の項目を加える契約もあります。
- 計算式は重要事項説明書に必ず記載されている
- 償却の単位(日割・月割・年単位)は契約ごとに異なる
- 原状回復費や清掃費が別途差し引かれる契約もある
- 口頭説明ではなく書面の数字で確認する
概算を自分で出してから施設に詳細を確認すると、説明内容のズレに気づきやすくなります。「自分のケースだといくら戻る想定ですか」と書面で問い合わせるのが、トラブルを防ぐ確実な方法です。
同じ施設でも、入居一時金のプラン(A型・B型など複数用意されているケース)によって計算式や償却条件が異なる場合があります。検討中のプランが複数あるなら、それぞれの計算式を並べて比較し、自分の想定入居年数で最も返金額が大きくなる組み合わせを選ぶ姿勢が大切です。
返金額を自分で計算する方法
契約書の数字さえそろえば、退去時に戻ってくる金額は電卓があれば算出できます。ここでは確認すべき3つの数字から、退去時期ごとの比較、一時金なしプランとの総額比較までを具体的な手順で見ていきます。
※ 前払金・初期償却率・償却期間・経過月数を入力すると、概算返金額の目安が分かります
契約書で確認する3つの数字
計算に必要な数字は3つだけです。重要事項説明書の「前払金の保全措置」「想定居住期間」「初期償却率」などの欄に記載されています。
- 入居一時金の金額(契約時に支払う総額)
- 初期償却率(入居時に差し引かれる割合)
- 償却期間(残額が消化される期間/月数)
償却期間は「想定居住期間」と呼ばれることもあり、施設が想定する平均的な入居年数に対応しています。この3つの数字を書き出しておくと、退去のタイミング別シミュレーションがそのまま行えます。
3つの数字は、それぞれ重要事項説明書の異なる欄に書かれているのが一般的です。入居一時金の金額は「前払金の額」、初期償却率は「前払金の返還金算定方法」、償却期間は「想定居住期間」の欄に記載されています。書類によっては別表や別紙にまとめられていることもあるため、見落としがないかを担当者と一緒に確認します。
入居時に差し引かれる金額を計算する
まず初期償却額を出します。入居一時金が1,000万円・初期償却率が20%の契約を例にすると、入居時点で「1,000万円 × 20%」の200万円が差し引かれ、残額は800万円となります。
この200万円は、その後どれだけ早く退去しても戻ってこない部分です。初期償却率が0%の契約であれば、入居一時金の全額がそのまま期間償却の対象になります。短期退去の可能性を見込むなら、初期償却率の低い契約のほうが返金リスクは小さくなります。
入居期間に応じて差し引かれる金額を計算する
次に、残額が入居期間でどれだけ消化されるかを計算します。償却期間を月数に直し、実際に住んだ月数で割り戻します。月割の場合は次の式になります。
残額800万円・償却期間5年(60か月)の契約で、入居から24か月で退去した場合は「800万円 × 24 ÷ 60」で320万円。返金見込みは「800万円 - 320万円」で480万円です。日割の契約であれば「日数 ÷ 償却期間の日数」で同じように算出します。
注意したいのは、月の途中で入居・退去した場合の扱いです。月割の契約では「1日でも住んだ月を1か月としてカウントする」ケースと、「半月以下は0.5か月、半月超は1か月として計算する」ケースなど、施設ごとに細かいルールが異なります。月末・月初の退去では、たった1日のズレで1か月分の償却が変わることもあるため、退去日の選び方も返金額に影響します。
退去時期ごとの返金額を比較する
同じ契約でも退去時期によって返金額は大きく変わります。入居一時金1,000万円・初期償却率20%・償却期間5年(月割)のモデルケースで、退去時期ごとの返金見込みを比較すると次のようになります。
| 退去時期 | 期間償却額 | 返金見込み |
|---|---|---|
| 入居6か月 | 80万円 | 720万円 |
| 入居1年 | 160万円 | 640万円 |
| 入居2年 | 320万円 | 480万円 |
| 入居3年 | 480万円 | 320万円 |
| 入居4年 | 640万円 | 160万円 |
| 入居5年以降 | 800万円 | 0円 |
この表のとおり、償却期間を過ぎると返金はゼロになります。「あと半年で償却期間が終わる」というタイミングで退去するかどうかで、返金額が数十万円から数百万円単位で変わる契約もあるため、退去予定がある場合はシミュレーションが欠かせません。
一時金なしプランと総額を比較する
同じ施設で「一時金あり」と「一時金なし(月額上乗せ)」の2プランを用意しているケースも増えています。一時金なしプランは初期費用を抑えられる一方、月額が高く設定されているため、長期入居になるほど総額が膨らみます。
比較するときは、想定する入居年数で「初期費用 + 月額 × 入居月数」の総額を出すと判断しやすくなります。たとえば月額が5万円上乗せになるプランで5年住むと、5万円 × 60か月で300万円の差が生じます。何年住むかで損得は逆転するため、契約書の月額と入居一時金の両方を並べて比較することが重要です。
- 一時金ありは初期負担が大きく、長期入居で割安になりやすい
- 一時金なしは初期負担が軽く、短期退去のリスクが小さい
- どちらが得かは「想定入居年数」で逆転する
- 同じ施設の2プランを並べて総額シミュレーションする
自分のケースで何年住むかが読みにくい場合は、複数の入居年数で総額を試算し、想定の幅を持っておくと安心です。
総額の比較にあたっては、月額利用料のほかに、介護保険の自己負担、医療費、おむつ代などの日常費用も加味します。重要事項説明書には「月額利用料に含まれる費用」と「実費負担となる費用」が一覧で記載されているため、両プランで同じ条件をそろえて並べることが、ぶれない比較の前提になります。
入居一時金あり・なしはどちらが得?
入居一時金ありとなしのどちらが向いているかは、入居期間の見込みと月額負担のバランスで決まります。短期退去のリスクをどう見るか、長期入居でいくら浮かせたいかという2つの視点で整理していきます。
短期間で退去する可能性があるなら返金ルールを重視する
体調の急変や医療体制の変更で、入居から1〜2年で退去する可能性は誰にでもあります。短期退去の可能性が読みにくい場合は、初期償却率が低く、償却期間が長めの契約のほうが返金リスクを抑えやすい設計になります。
一時金なしプランを選べば、退去時の返金計算そのものが発生しないため、短期退去でも金銭的なダメージは最小限で済みます。親の健康状態に不安がある、要介護度が上がる可能性が高いといった場合は、初期費用の軽さを優先する判断もあります。
近年は「入居一時金0円プラン」を打ち出す有料老人ホームが増えており、月額利用料に償却分を上乗せする方式が一般的です。月額が周辺施設より明らかに高い場合は、その差額が実質的な償却分にあたると考えると、長期入居時の総額が一時金ありプランより膨らむかどうかを比較しやすくなります(出典:複数介護メディアの比較記事)。
長く住む予定なら月額費用も含めて比較する
反対に、想定居住期間を超えて長く住む見込みがある場合は、月額負担まで含めた総額で判断する必要があります。一時金ありプランは月額が抑えられていることが多く、長期入居になるほど一時金なしプランとの差額が大きく開いていきます。
ただし、長期入居の途中で施設側の運営方針や月額が改定されるケースもあります。重要事項説明書に「月額改定の条件」が記載されているかを確認し、想定外の負担増がないかをチェックしておくと安心です(出典:厚生労働省 有料老人ホーム設置運営標準指導指針)。
何年住めば一時金ありの方が得になるか確認する
「何年住めば一時金ありが得になるか」は、月額差と一時金額のバランスで決まるため、契約ごとにまったく異なります。一律の目安年数は存在せず、施設の見積もりを使った個別シミュレーションでしか判断できません。
一時金ありプランの「初期費用 + 月額 × 想定月数」
vs
一時金なしプランの「初期費用 + 月額 × 想定月数」
想定する入居年数を3年・5年・10年など複数パターンで試算し、どの時点で逆転するかを把握しておくと判断材料になります。施設の相談窓口に「同じ条件で両プランの見積もりを出してほしい」と依頼すれば、比較表を出してもらえることが多いです。判断に迷う場合は、第三者の有料老人ホーム紹介サービスに相談してシミュレーションを依頼するのも一つの方法です。
- 想定居住期間より短く退去する可能性が高い場合は、一時金なしか低めの初期償却プラン
- 想定居住期間と同じくらい住む見込みが立つ場合は、月額の低い一時金ありプラン
- 判断材料が足りないと感じたら、複数プランの見積書を取り寄せて比較
「絶対に得をするプラン」は存在せず、家庭ごとの想定入居年数と健康状態の見立てによって最適解は変わります。決め打ちを避け、複数シナリオで損益分岐を確認する姿勢が、後悔の少ない選択につながります。
契約前に必ず確認したい書類とチェック項目
入居一時金の返金トラブルの多くは、契約前の確認不足から起きています。重要事項説明書と契約書には、返金額を決める重要な数字と条件がすべて書かれています。ここでは契約前に必ず目を通すべき6つのチェック項目を順番に見ていきます。
📄 見る場所:重要事項説明書「利用料金・前払金」欄
📄 見る場所:契約書「前払金の償却」「初期償却」項
📄 見る場所:契約書「償却期間」「均等償却年数」項
📄 見る場所:契約書「解約時の返還金算定方法」項
📄 見る場所:重要事項説明書「保全措置」欄
📄 見る場所:契約書「原状回復」「明渡し」項
何年住む前提で入居一時金が設定されているか
入居一時金は、施設が想定する「平均的な入居年数」をもとに金額が設計されています。この期間は「想定居住期間」と呼ばれ、重要事項説明書に必ず記載されています。
想定居住期間が短い契約は月あたりの償却額が大きくなりやすく、長い契約はゆるやかに減っていきます。自分が想定する入居年数と、施設の想定居住期間が大きくずれていないかを確認することが、返金額の見当を立てる出発点になります。
想定居住期間は、施設側が過去の入居者データから算出している統計値です。同じ「介護付有料老人ホーム」でも、平均年齢や要介護度の分布によって想定居住期間が3年程度〜10年超まで幅があります。短い想定居住期間が設定されている施設は、看取り対応や重度ケアを前提にしているケースもあるため、数字の背景を施設側に確認しておくと判断しやすくなります。
入居時にいくら差し引かれるか
初期償却率は施設によって大きな差があり、0〜30%程度の幅で設定されています(出典:LIFULL介護・みんかい)。同じ1,000万円の入居一時金でも、初期償却率が0%と30%の契約では、入居直後の返金見込みに300万円の差が生まれます。
初期償却率は重要事項説明書の「前払金の返還金算定方法」欄に記載されています。「初期償却なし」と書かれていれば0%ですが、「30%」「3割」といった表記がある場合は、その分が入居時点で戻らないお金になります。
何年かけて入居一時金が償却されるか
償却期間は5〜10年に設定されている契約が多いとされています(出典:LIFULL介護・安心介護紹介センター)。償却期間を過ぎると返金はゼロになるのが一般的なため、自分が想定する入居年数と償却期間の関係を必ず確認しておきます。
償却期間が短い契約は、想定より早く退去した場合の返金額が小さくなりがちです。償却期間が長い契約はゆるやかに減るため短期退去には強い一方、長期入居でも返金が残るとは限りません。
償却期間の月数や年数は、契約書の本文と重要事項説明書の両方に記載されているのが一般的です。両者の数字が一致しているかを念のため確認します。万一食い違いがあれば、口頭ではなく書面で訂正を求め、最終的にどちらの数字で計算されるのかを明確にしておきます。
退去時の返金額をどう計算するか
返金額の算定方法は契約ごとに異なります。月割か日割か、初期償却を差し引く順番、利息相当分の扱いなど、施設ごとに細部のルールが違うため、重要事項説明書の「前払金の返還金算定方法」欄を文字どおり読み込む必要があります。
- 償却の刻みが日割か月割か年単位か
- 初期償却を差し引く順番(先に引くか後で引くか)
- 利息相当分や事務手数料が控除されるか
- 返金までの日数(退去後何日以内に振り込まれるか)
口頭の説明と契約書の表記が食い違うことがあるため、不明点は必ず書面で質問し、回答も書面で残してもらいます。
施設が倒産したときにいくら保全されるか
2006年4月以降に開設された有料老人ホームには、入居一時金の保全措置が義務づけられています(老人福祉法第29条)。保全措置の上限額は未償却分または500万円のいずれか低い額で、施設が倒産した場合に保全される金額にも上限があることを理解しておく必要があります(出典:内閣府消費者委員会・LIFULL介護)。
たとえば未償却分が1,000万円ある状態で施設が倒産した場合、保全されるのは500万円まで。残りの500万円は債権者として倒産処理の中で扱われ、全額が戻る保証はありません。重要事項説明書には「保全措置の方法」「保全機関」「保全額」が記載されているため、必ず確認します。
2006年3月以前に開設された施設には保全措置が義務づけられておらず、施設側が任意で対応している場合のみ保全されます。古くから運営されている施設を検討するときは、開設時期と保全措置の有無を必ず確認します。保全措置の方式には「銀行・損害保険会社による連帯保証」「信託契約」などがあり、方式によって倒産時の手続きや受け取りまでの期間が変わります(出典:厚生労働省 有料老人ホーム設置運営標準指導指針)。
退去時の修理費や清掃費を誰が負担するか
退去時に居室の原状回復費用や清掃費が、入居一時金の返金額から差し引かれる契約は少なくありません。「原状回復」の範囲は契約ごとに異なり、通常の使用による損耗まで入居者負担とする契約もあります。
契約書の「原状回復義務」「退去時の費用負担」欄を確認し、想定される金額のレンジを事前に把握しておきます。「概算で30〜50万円」など、施設側に過去のケースを聞いておくと、退去時の返金額の見込みが立てやすくなります。
居室の改装を入居者側で行ったり、家具・家電を持ち込んだりするケースでは、原状回復の範囲がより広く解釈されることがあります。入居前の段階で、どこまでが施設側の負担で、どこからが入居者負担になるのかを、写真や書面で確認しておくと退去時のトラブルを大きく減らせます。

退去時の返金トラブルを防ぐには
入居一時金の返金トラブルは、退去のタイミングや契約条件の見落としから起きるケースが大半です。事前に確認しておくべきポイントを4つに分けて整理します。
入居後90日以内に退去する場合の返金ルールを確認する
有料老人ホームには「短期解約特例(90日ルール)」と呼ばれる仕組みがあり、入居後一定期間内に契約を解除した場合、前払金が返還の対象になります。多くの施設で入居から90日以内が対象期間とされていますが、利用した期間分の費用や、原状回復費用などが控除されることがあります(出典:全国有料老人ホーム協会)。
「90日以内なら全額戻る」と単純に考えるのではなく、契約書の短期解約特例の条項に、何が控除対象になるのかを確認しておきます。短期解約特例の細かい条件や、適用されるケースの詳細は別記事で解説しています。
短期解約特例の対象期間は施設ごとに設定されていますが、多くの有料老人ホームで「入居後90日以内」が一つの目安となっています。期間の数え方(入居日を含むか否か、休日の扱いなど)も契約ごとに違いがあるため、入居前の段階で「実際に何月何日までが対象になるのか」を担当者に確認しておくと、判断のタイミングを誤らずに済みます。

退去前に返金予定額を書面で確認する
退去日が決まったら、施設に「返金予定額の試算書」を書面で発行してもらいます。口頭の説明だけだと、後から金額が変わったときに証拠が残らず、トラブルになりやすいためです。
試算書には、入居一時金の元本、初期償却額、期間償却額、差し引かれる原状回復費用などが内訳として書かれていることが理想です。内訳が不明確な場合は、契約書の計算式に沿って自分でも検算し、施設の試算と一致しているかを確認します。
金額に食い違いがある場合は、その場で署名や承諾をせず、いったん持ち帰って契約書と照らし合わせます。返金額の振込時期も契約書に記載されていることが多いため、「退去後何日以内に振り込まれるのか」「振込口座の指定方法」も併せて確認しておくと、退去当日の手続きがスムーズに進みます。
返金額から差し引かれる費用を確認する
返金額からは、未償却分以外にもさまざまな費用が控除される場合があります。代表的な控除項目を整理すると次のとおりです。
- 居室の原状回復費用(壁紙の張り替え・床補修など)
- 退去時のクリーニング・消毒費用
- 未払いの月額利用料・介護サービス費
- 残置物の処分費用
これらの控除項目は契約書に明記されていることが多いものの、金額のレンジまでは記載されないのが一般的です。トラブルを避けるためには、入居前の段階で「過去の退去者の平均的な控除額」を施設に聞いておくと、返金見込みの精度が上がります。
支払いが難しくなったら早めに相談する
入居中に月額費用の支払いが難しくなった場合、退去を急ぐ前に施設や自治体の相談窓口に相談することで、選択肢が広がるケースがあります。早い段階で動いたほうが、選べる施設や制度の幅が大きくなります。
滞納が積み重なってから退去となると、未払い分が返金額から差し引かれ、手元に残るお金が大きく目減りする可能性があります。市区町村の高齢者支援窓口、地域包括支援センター、社会福祉協議会など、無料で相談できる公的窓口を早めに利用することで、転居先の選択肢や利用できる制度の情報が得られます。
払えない状況になったときの具体的な出口戦略については、別記事で詳しく整理しています。

入居一時金は「いくら戻るか」を契約前に確認しよう
入居一時金の返金は、契約書に書かれた数字と計算式によって決まります。契約前に押さえておきたいポイントを最後に整理します。
入居一時金は入居期間に応じて返金額が減っていく
入居一時金は、入居時に初期償却で一定額が差し引かれ、その後の入居期間に応じて残額が少しずつ減っていきます。償却期間を過ぎると返金はゼロになるのが一般的で、全額が戻る契約はほとんどありません。
退去する時期によって返金額は大きく変わる
同じ契約でも、退去する時期によって返金額は数百万円単位で変わります。償却期間の終了間際や、初期償却率の高い契約の入居直後は、特に返金額の振れ幅が大きくなります。退去予定がある場合は、契約書の計算式で必ずシミュレーションしておきます。
契約前に返金の計算方法を必ず確認する
契約後に返金ルールを変えることはできません。重要事項説明書の「前払金の返還金算定方法」と「保全措置」の欄を必ず確認し、不明点は書面で質問してから契約に進みます。判断に迷うときは、第三者の介護相談サービスを利用して、契約書のチェックや個別シミュレーションを依頼するのも有効です。



