家族などの介護のために離職する人は、年間約8〜10万人にも上っています。
総務省「就業構造基本調査」によると、2021年の介護離職者数は9万9000人であり、過去1年間に前職を離職した者の1.8%(介護離職率)に相当します。
介護が必要になるのは70~80代の後期高齢者です。
つまり介護離職はその子ども世代である40代後半~50代のビジネスパーソンに多く発生します。
下の表を見てもわかるとおり、実際に介護離職をしている人は40歳以上で増え始め、50~55歳付近でピークになります。
参考サイト
・総務省 就業構造基本調査
・厚生労働省 仕事と介護の両立 ~介護離職を防ぐために~
・親の介護で生活が破綻、54歳でホームレスに 貧困の入り口となる選択とは
家族に介護が必要になったら
介護保険制度をどのように利用したらいいのか、いざとなったときにうまく活用できるか心配という人も多いのではないでしょうか。
また、「介護は家族がするもの」そんな意識の人も少なくありません。
その一方で、一度仕事を離れてしまったら、同じ職場への復帰は容易ではありません。
今回は、会社員が家族の介護をする場合に利用できる制度や、相談先などについて紹介します。
介護離職を避けるために利用できる制度
会社員が家族の介護にあたる場合に利用できる制度をいくつか紹介します。
まとまった休みが必要な場合
「要介護状態」の家族を介護する会社員などは、育児・介護休業法に基づいて、「介護休業」を取得することができます。
配偶者や子供などが対象で、家族1人につき要介護状態になるごとに3回を上限として通算93日まで取得できます。
原則2週間前までに書面などで会社に申し出る必要があります。
介護休業期間は無給ですが、復職後に「介護休業給付金」を受け取れます。
不定期に数日休みが必要な場合
要介護状態の家族が1人の場合は年に5日、2人以上の場合は年10日まで半日単位で「介護休暇」という休暇が取得できます。
介護休暇は、病気・怪我や高齢などの理由で、家族に介護が必要になった際に取得できる休暇のことです。
時間単位で取得することもでき、排泄・食事介助などの直接的な介護以外にも、必要な買い物や書類の手続き、通院の付添いなど短時間の休みが必要な時に利用できます。
介護休暇は、「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」で規定されている、仕事と介護の両立をサポートするための制度です。
しかし現状では、介護休暇を申し出た際に企業側から拒否されてしまうことがあり、介護と仕事の両立がより一層困難となった介護者は、介護離職の道を選ばざるを得ないというケースが見られます。
会社に介護休暇を申請する上で覚えておきたいのが、
- 事業主は介護休暇申請を拒否できない
- 介護休暇を取得しても解雇される理由にはならない
ということが、先の「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」で定められている点です。
解雇だけでなく、降格や減給、賞与の削減といった労働者側が不利益を被ることも、同法律にて禁止されています。
ちょうど親の介護が必要になる40代~50代社員の休暇は、企業側からすると業務の生産性が低下するなどデメリットが大きいため、申請をなかなか受け付けてくれないケースがあります。
しかし、介護休暇の取得は国の法律によって守られている権利であるため、積極的に活用しましょう。
介護休暇 | 介護休業 | |
---|---|---|
取得できる日数 | 対象家族1人につき1年度に5日 2人以上の場合は10日 | 対象家族1人につき93日まで |
賃金・給付の有無 | 賃金は原則無給 会社によって有給 | 賃金は原則無給 条件を満たせば雇用保険の介護休業給付金制度の利用可 |
申請方法 | 当日の申請可 | 開始日の二週間前までに会社に申請 |
対象者 | 雇用期間6ヶ月以上 要介護の家族の介護 | 同一の会社に1年以上雇用されている 介護休業開始予定日から数えて93日経過しても半年は 雇用契約が続く人 |
時間の調整が必要な場合
「勤務時間の短縮制度」は介護休業とは別に、企業が短時間勤務やフレックスタイム制などから少なくとも1つの措置を講じるよう義務付けられています。
ほかにも「法定時間外労働の制限」、「深夜業の制限」もあります。
こうした制度により、会社は介護による離職者を減らし、経験を積んだ従業員を長期的に雇用することで安定した人材の確保が可能になるというメリットがありますので、遠慮することなく会社へ相談すべきです。
また、国は介護保険制度も用意しています。
家族に介護が必要な状況になったら、まずは会社や市区町村の介護保険の担当窓口、または地域包括支援センターに相談することをおすすめします。
気持ちにゆとりを
離職して介護に専念してしまうと外部とのつながりが少なくなり、社会から孤立した気持ちになって思いつめてしまうことがあります。
短い時間でも家族介護から離れる時間をつくることをおすすめします。
気分転換にパートで働くことは経済面でもメリットがあります。
そんなとき、家族を介護する状況をよく理解してくれる介護業界への転職・復職も選択肢のひとつです。
介護事業所は全国にあって、近所で短時間から就業できる機会も多くあります。
また、介護業界は国がキャリアパスを推奨していることもあり、中途採用者がキャリアアップをめざせる環境が整っているので、第二のキャリアを築いていくことも可能です。
家族介護の期間中に、落ち着いたら自分がどう働くかのビジョンを持つことは気持ちのゆとりに繋がります。
介護離職は当人だけでなく、会社や社会にとっても損失です。
会社や行政に早めに相談することで、家族介護にひとりで悩むことなく自分に合った対応を求めることができる社会になりつつあります。
2021年度介護保険事業状況報告(年報)によると、要介護認定者の割合は65~69歳では2.9%ですが、加齢とともに急速に高まり、80~84歳では26.4%、85歳以上では59.8%となっています。
つまり、後期高齢者になると介護を必要とする可能性が急激に高くなるということです。
このため、「団塊の世代が2025年頃までに75歳以上の後期高齢者となり、介護・医療費など社会保障費の急増が懸念される問題」を2025年問題と言われています。
さらに、団塊の世代を親に持つ働き盛り世代の介護離職が激増することも懸念されています。その理由は以下の3つが考えられます。
1つ目の理由
大切な家族のために、自分が介護しなければならないという責任感です。
- 「施設に預けるのは申し訳ない」
- 「働いている間が心配で仕事が手につかない」
- 「一人っ子のため頼れる親族がいない」
そんな声をよく聞きます。
2つ目の理由
介護サービス費用の負担を減らすために、自分が介護しなければならないという金銭問題です。
家族が安心して仕事ができるほどの介護サービスには想像以上の費用がかかります。
利用者が介護費用を捻出できなければ、家族が手を出すかお金を出すかしなければならず、退職を選択する人が少なくありません。
3つ目の理由
仕事と介護の両立が難しいという職場環境です。
- 「介護休業の制度はあるが、利用の仕方がわからない」
- 「介護休業を取得した職員がいないため、言い出しにくい」
- 「人事労務担当者に介護の話が通じない」
従業員はそんな悩みを抱えています。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「仕事と介護の両立に関する労働者アンケート調査」によると、介護を機に離職をした理由の上位は、
- 仕事と介護の両立が難しい職場だったため
- 自分の心身の健康状態が悪化したため
- 自身の希望として介護に専念したかったため
- 施設へ入所できず介護の負担が増えたため
- 自分自身で介護するとサービスなどの利用料を軽減できるため
しかし、介護を機に仕事をやめた時、仕事を「続けたかった」と回答した離職者は、
男性56.0%、女性55.7%と、過半数が働き続けたかったのです。
さらに、離職後、「負担が増した」としている人は、「精神面」について64.9%、「肉体面」について56.6%、「経済面」について74.9%であり、いずれも負担が減るのではなく、むしろ増したとの回答割合が高くなっているのです。
継続的に介護を行うためには、経済的な負担がかかります。
介護が終了した後の生活を視野に入れて考えても、経済的基盤は重要です。
また、社会との繋がりが断たれ、介護を抱え込んでしまうことで心身ともに追い込まれていく恐れがあります。
企業においても、大切な従業員を介護のために失うことは大きな損失であり、企業の持続的な発展に影響が出てくることになるのです。
では、仕事と介護を両立させるためには、どうすればよいでしょうか。
仕事と介護の両立
仕事と介護を両立させるには、企業や就労者はどうすればいいのでしょうか。
企業の両立支援の課題を立てるうえで大切なのは、介護世代の人々が介護についてどう思っているかを知ることです。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「仕事と介護の両立に関する労働者アンケート調査」によると、仕事と介護の両立について、40代・50代の正社員に尋ねてみたところ、
「非常に不安を感じている」「不安を感じている」人は、男性で72.1%、女性で77.2%という結果でした。
さらに、介護を機とした離職者では、男女ともに8割強が「非常に不安を感じていた」「不安を感じていた」と回答しています。
不安を感じている人の具体的な不安内容をみると、
- 自分の仕事を代わってくれる人がいない
- 介護休業制度等の両立支援制度を利用すると収入が減る
- 介護休業制度等の両立支援制度がない
- 介護サービスや施設の利用方法がわからない
- どのように両立支援制度と介護サービスを組み合わせれば良いかわからない
という結果が出ています。
このことから、
- 両立支援制度がないことで離職者が増えてしまっている
- 両立支援制度が上手に活用されていない
- 企業の両立支援制度モデルがないため効果的な運用がされていない
ことが考えられます。
介護離職をした人たちの多くは、本当は「働き続けたかった」のです。
ですが、「自分の仕事を代わってくれる人がいない」ことで介護と仕事の板挟みに合い、仕方なく離職してしまうという人が多いと考えられます。
残念ながら、現時点での企業は、両立支援に関して消極的であると言えます。
「介護を抱える従業員がいるかどうかの実態把握状況」から見ると「特に把握していない」が46.4%と、約半数なのです。
企業が両立支援について他人事と考えているうちは、体制が整えられず、就労者に周知もされません。
ですから、就労者は介護に直面しても、企業に相談もできないままに退職を余儀なくされるという悪循環に陥っているのです。
企業側は次の課題に取り組み、両立支援体制を早急に整備しなければなりません。
- 就労者の介護に対するニーズの把握
- 介護を抱える、または介護が予想される就労者の実態把握
- 業務内容のシェア、仕事の分担などができるような職場づくり
- 両立支援制度の確立と周知
両立支援体制を整えておけば、就労者が介護に直面しても安心して働き続けることができます。
また、就労者が介護休業などを取得した場合に、国から助成金を受けることも可能です。
介護はプロの事業者にお任せし、家族は介護休業などを利用して介護の環境を整え、心の繋がりを大切にすることが必要なのです。
また、行政手続きを行うことで、受けられる軽減制度があっても、それを知らず、誰にも教えてもらえず、余分な費用を払っている人が非常に多いことも問題です。
そのためには、介護保険制度のについて、企業も従業員も理解していくことが早急に求められます。