子育てと介護を同時にしなければならない状態を「ダブルケア」と呼ばれています。
平成28年3月に公表された内閣府の調査によると、育児と介護を同時に行っているダブルケアラーは約25万人と推計され、そのうち8割が30~40代と働き盛りの世代で、約66%が女性です。
少子化と高齢化の同時進行や、晩婚化・晩産化に伴い、子育てと介護を同時に行わなければならないダブルケアラー予備軍は相当数いると見られています。
男女計 | 女性 | 男性 | |
---|---|---|---|
ダブルケアを行う者 | 25.3 万人 | 16.8 万人 | 8.5 万人 |
育児のみ行う者 | 974.2 | 576.7 | 397.5 |
介護のみ行う者 | 532.1 | 340.0 | 192.1 |
育児・介護をしていない | 9,549.9 | 4,806.7 | 4,743.2 |
時間的、身体的、精神的に余裕を失い、苦境に陥る人も多く、育児と介護の板ばさみで精神的に追い込まれ、うつ状態になったり、暴言を吐くようになったりと、心のケアの必要性も指摘されています。
また、行政のサポート窓口は、育児と介護で分かれていて、当事者からは
- 「誰に相談すればいいのか分からない」
- 「悩みを共有できる場がない」
といった「孤立」を訴える声も増えています。
参考サイト:
・内閣府男女共同参画局:育児と介護のダブルケアの実態に関する調査報告書
・株式会社NTTデータ経営研究所:育児と介護のダブルケアの実態に関する調査
30代後半~40代後半でダブルケアが一気に急増
ダブルケアのケースは多重介護の状態を含めると様々です。
- 障がいのあるきょうだい児のケア
- 病気のパートナーのケア
- 自身のきょうだいのケア
ダブルケアをおこなう人の平均年齢は男女ともに40歳前後。
総務省の調査によると、子育て世代にあたる30〜40代が全体の約8割を占めるという結果が出ています。
「働き盛り世代」が育児と介護を両立しているのです。
時には「仕事と子育てで多忙な上に急に介護が始まり、疲れ果て、自分が心の不調に…」とダブルケアが引き金で新たなケアが生まれることも珍しくありません。
小さな家族の中でどんどん大変な状況が積み重なると、気が付いた時には身動きができない状態になっていることも。
そうなる前にダブルケアへ備えておくことが重要なのです。
ダブルケアへ備えられること
ソニー生命連携調査によると、ダブルケアラーの4割近くが「備えを何も行っていない・いなかった」と回答しています。
ダブルケアをやみくもに恐れず、必要な「備え」を知り、できることから一つずつ整えておくことがいざという時に役立ちます。
- 支援や制度の確認
- 仕事に対する「備え」
- 生活状況の把握
- 家族との話し合い
支援や制度の確認
「高齢者福祉」「児童福祉」「障がい者福祉」と制度上は縦割り状態の中、ダブルケアは「狭間の問題」です。
そのため窓口がバラバラになってしまい、支援につながるまでに疲れ果ててしまいます。
事前に自分に関係しそうな複数の分野の支援先のイメージを軽くでも知っておくことは、ダブルケアの基礎体力となります。
最初の取っ掛かりとして、地域の地域包括支援センターに相談するのをお勧めします。
地域包括支援センターは高齢者の介護・医療・福祉などの困りごとがある際に支援をおこなう総合窓口です。
仕事に対する「備え」
ダブルケアの経済的な負担は育児と介護で月7万円を超えると言われています(ソニー生命ダブルケア調査2018)。
経済的な負担が大きい一方で、男性の8.4%、女性の11.6%が離職をしています。
その理由として必要な支援につながるまでは、家族が主体となって対応しなければならないことが多くあることが挙げられます。
ダブルケアと仕事の両立に必要なことは「一人で抱え込まないこと」。
職場の理解を得ようと思ったら、介護をしていることを周囲に伝え、必要な情報を共有することです。
また介護休業や介護休暇は「仕事を続けるための準備期間」として活用し、具体的な目標を持って動くことが必要です。
育児や介護を⾏う労働者が⼦の看護休暇や介護休暇を柔軟に取得することができるよう、育児・介護休業法施⾏規則等が改正され 、時間単位で取得できるようになります。
介護休暇 | 介護休業 | |
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取得できる日数 | 対象家族1人につき1年度に5日 2人以上の場合は10日 | 対象家族1人につき93日まで |
賃金・給付の有無 | 賃金は原則無給 会社によって有給 | 賃金は原則無給 条件を満たせば雇用保険の介護休業給付金制度の利用可 |
申請方法 | 当日の申請可 | 開始日の二週間前までに会社に申請 |
対象者 | 雇用期間6ヶ月以上 要介護の家族の介護 | 同一の会社に1年以上雇用されている 介護休業開始予定日から数えて93日経過しても半年は 雇用契約が続く人 |
仕事はダブルケアの状況下において、精神的な逃げ場となったとの声もよく聞かれます。
ダブルケア状況であっても、仕事をしている間は自分のスイッチが切り替わり、日々の精神的なバランスをとることができます。
仕事は自分のキャリアでもあります。人生で大切なものが守られることは充足感となり、生きる力となります。
介護と仕事の両立については、各都道府県に設置された労働局(労働基準監督署、公共職業安定所)に相談してください。
介護離職を回避するために利用できる制度の説明や助言を受けられます。
生活状況の把握
育児や介護の主体は圧倒的に女性が多く、男性はこれらのケアワーク全般に対する意識が低い傾向がみられます。
いざという時に「こんなにかかるのか」と夫婦で口論になるなど、意識の違いもストレスとなります。
そこで大切になるのはコミュニケーションです。
普段から、時間やコストが「何に、どれくらい」かかっているかを具体的に共有しておくことが大切です。
ダブルケアをしていると「子どもに対して余裕がなくなってつらい」など子育てへのしわ寄せをつらいと感じようになります。
「どちらかをしようとすると、どちらかがおろそかになって当然」と自分たちの事情に納得し、どう優先順位をつけるかを決めるようにすることで心の負荷を最小限におさえることができます。
家族との話し合い
ダブルケアに対する備えとして行っておいたほうが良かったダブルケアラーの実感 1位は「ダブルケアの分担について親族と話し合う」となっています。
兄弟がいる場合、介護の方法や負担について話し合いましょう。
老人ホームなどの介護施設に入居させるのかどうか、誰がどのような方法で関わるのかなどを、しっかり話し合いで決めます。
育児についても夫婦で話し合う機会を設け、一人で抱え込まないことが大切です。
ダブルケアが必要になってからだと話し合いが難しくなるので、ダブルケアの可能性が出てきた段階で早めに話し合うのがおすすめです。
同じ境遇の人との交流
- 「子育てが苦しい」
- 「余裕がない」
- 「子どもにイライラしてしまう」
と子育てに息苦しさを感じているのに加えて、介護という新たなケアが重なると、日々を過ごすことに精いっぱいで『私はダブルケアラーだ』と本人が自覚することはまれです。
一方、ケアマネージャーなど介護の専門家でさえ、ダブルケアをよく知らない人が多いという問題もあります。
同じ福祉分野でも、育児と介護はそれぞれ別の分野であるため、ダブルケアを抱える家族の状況を考える認識が遅れているのです。
そのような中、ダブルケアラーのコミュニティやネットワークにはなるべく参加してみましょう。
相談窓口がないからといって誰にも相談できない状態を作ってしまうと、ますます孤立してしまい周囲からの支援の目も行き届かなくなるおそれがあります。
同じ境遇にいる方同士の交流では、思わぬアドバイスをもらえることも多いです。
何気ない会話から困りごとをキャッチし、そのままにしないことが重要です。
問題が大きくなる前のタイミングで困りごとをキャッチできれば、支援の選択肢や利用のための手順を示すなど、少し手を添えるだけで、家族の力で必要な支援につなげることができます。
困難なイメージが強いダブルケアですが、子育てや介護に限らず、人生では様々なケアが重なることが多くあります。
愚痴を聞いてもらったり、ねぎらってもらったり、意識をすれば誰かに頼れることは実はたくさんあります。
頼ることができる人は頼られる人になると言われます。
日頃から「お互い様」のやりとりを積み重ねることで家族の応援団が増え、難しい局面でも望む暮らしの実現の一歩になるのです。
介護サービスを利用する
育児をしながら在宅介護サービス利用する方法も一案です。
在宅介護サービスとは、自宅で生活をしながら介護保険サービスを組み合わせて利用することです。
在宅介護サービスでは、施設へ通うデイサービス(通所介護)や短期間の宿泊を伴うショートステイなどがおすすめです。
例えば、保育園や幼稚園がお休みとなる土日に利用することで、負担を軽減することができます。
一週間単位で考えて、育児と介護がなるべく重ならないようにするといいでしょう。
在宅介護が困難な場合には、施設入居を検討するのもひとつの方法です。
空室がなく待機が必要となることが多い特別養護老人ホームは、ダブルケアをしているという状況を説明すると、優先的に入所できる場合があります。
この場合は、市区町村の福祉課窓口もしくは希望する施設に問い合わせてみましょう。
まとめ
育児と介護を並行して担うダブルケアは、少子高齢化や晩婚化、出産年齢の高齢化などを背景に、近年問題視されています。
育児と介護を行う負担はもちろん、、、
- 孤立しやすいこと
- 精神的に疲弊しやすいこと
- 費用や時間がかかること
などが主な問題点です。
少しでも負担を軽減するためには、サポートや援助を受けるために情報収集したり、周りの人に協力してもらったりする必要があります。
誰にでもダブルケアを行う必要が出てくる可能性があるので、今直面していなくても早めに準備を進めていきましょう。