親から相続した実家を売る前に確認すること
実家を売却する前には、整えておくべき前提が三つあります。名義の状態、相続人同士の合意、そして売却以外の選択肢の検討です。この三点が固まらないまま不動産会社に査定を依頼しても、契約の段階で戻ってきてしまうケースが目立ちます。順番に確認していきます。
親名義のままでは売却できない
相続した実家を売るうえで最も重要な前提は、登記簿上の名義を相続人に変更しておくことです。法務局に登録された所有者が亡くなった親のままでは、不動産会社が売買契約を仲介できません。買主にとっても、所有権が確定していない物件は引き渡し後の登記移転に支障が出るため、契約に応じてもらえないのが実情です。
この名義変更の手続きを相続登記(相続によって不動産の所有者名義を書き換える登記)と呼びます。2024年4月からは相続登記が義務化され、不動産を取得したことを知った日から3年以内に申請しなければ、正当な理由がない場合は10万円以下の過料の対象となります。法務省の2024年12月調査では義務化の認知度は72.9%に達していますが、「知っているが手続きはまだ」という家族が一定数残っています。
相続登記には、被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本一式、相続人全員の戸籍、遺産分割協議書、固定資産評価証明書などが必要です。登録免許税は固定資産税評価額の0.4%、司法書士へ依頼する場合の報酬は5万円〜15万円が目安とされています。書類収集に1〜2ヶ月かかるため、売却を視野に入れた段階で並行して着手しておくと、後工程が滞りません。
相続人全員の合意が必要
遺言書がない場合、実家を含む遺産は相続人全員の共有財産として扱われます。売却するには、誰がどの財産を取得するかを話し合いで決め、その結果を遺産分割協議書にまとめる必要があります。協議書には相続人全員の実印が押され、印鑑証明書が添付されることで法的な効力を持ちます。
遠方に住むきょうだいがいる場合、書類を郵送して順番に署名押印を集める段取りになります。印鑑登録をしていない兄弟姉妹がいると、まず役所での印鑑登録から始めることになり、想定外に時間がかかることがあります。誰か一人でも合意できない、あるいは連絡が取れない相続人がいると、売却そのものが止まってしまうため、早い段階で全員と連絡を取り、進め方を共有しておくと安心です。
- 相続人全員の戸籍謄本・住民票
- 相続人全員の印鑑証明書(発行から3ヶ月以内のものを求められることが多い)
- 遺産分割協議書(実印押印)
- 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本一式
話し合いがまとまらない場合は、家庭裁判所の遺産分割調停という選択肢がありますが、申立てから解決まで1年以上かかるケースもあります。揉めそうな兆しが見えた段階で、相続に詳しい弁護士に早めに相談しておくと、長期化を避けやすくなります。
売る・住む・貸す・残すを決める
名義と合意の見通しが立ったら、実家をどう扱うかという根本の方針を相続人で揃えます。選択肢は大きく分けて四つです。売却して現金化する、相続人の誰かが住み継ぐ、第三者に賃貸して家賃収入を得る、そのまま残して管理を続ける、という整理になります。
| 選択肢 | 向いている家族の状況 | 主な負担 |
|---|---|---|
| 売る | 遠方在住・きょうだいで分けたい・空き家管理が困難 | 譲渡所得税・売却までの時間 |
| 住む | 相続人が地元在住・実家の立地を活用したい | 他の相続人への代償金 |
| 貸す | 立地が賃貸需要を満たす・将来戻る可能性がある | 修繕費・空室リスク・管理会社費用 |
| 残す | 方針を決めきれない・思い出を整理したい | 固定資産税・管理コスト・空き家リスク |
「残す」を選ぶ場合に注意したいのが、管理されていない空き家に対する自治体の指定制度です。倒壊や衛生上の問題があると判断されると「管理不全空家」や「特定空家」に指定され、固定資産税の住宅用地特例から外れて固定資産税が最大6倍になる可能性があります。判断を先送りにするほど維持コストが膨らむ構造です。
「貸す」という選択肢で施設費用や生活費を賄えるケースもあります。賃貸活用の判断軸については本サイトの賃貸活用記事で別途整理しているため、売却と並べて検討したい家族はそちらも合わせて参考にしてください。
相続した実家を売却する流れ
相続した実家の売却は、戸籍の確認から引き渡しまで、多くの場合半年から1年程度の時間を要します。法的な手続き、家族での合意、不動産会社とのやり取りが折り重なるため、各工程の役割を分けて把握しておくと、抜け漏れが減ります。ここでは王道となる五つの段階に分けて整理します。
相続人と遺言書を確認する
最初の工程は、誰が相続人なのかを確定させ、遺言書の有無を確認することです。被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本を集めて、法定相続人を一人ずつ洗い出します。前妻との間に子がいる、養子縁組があるなど、家族が把握していなかった相続人が判明することもあります。
遺言書が見つかった場合、公正証書遺言以外(自筆証書遺言・秘密証書遺言)は家庭裁判所での検認が必要です。検認を経ずに開封すると過料の対象となる可能性があるため、封のままで家庭裁判所に持参します。法務局の自筆証書遺言書保管制度を利用している場合は検認が不要です。
遺産分割協議で実家の扱いを決める
相続人が確定し、遺産の全容が見えてきたら、誰が何を相続するかを話し合います。実家を売却する方針が固まれば、遺産分割協議書に「相続人〇〇が不動産を相続し売却のうえ、売却代金を相続人間で按分する」といった形で記載します。文言の整え方によって後の税務上の扱いが変わることがあるため、税理士や司法書士に文案を確認してもらうと安心です。
相続放棄を選ぶ場合は、被相続人が亡くなったことを知った日から3ヶ月以内に家庭裁判所へ申述する必要があります。負債が資産を上回るとわかったとき、あるいは関わりたくない事情があるときに検討される制度です。期限を過ぎると単純承認とみなされ、債務も引き継ぐことになります。
相続登記で名義変更する
遺産分割協議書が整ったら、法務局で相続登記を申請します。申請には登録免許税として、固定資産税評価額の0.4%がかかります。たとえば評価額1,500万円の戸建てなら6万円が目安です。手続きを司法書士に依頼する場合の報酬は、書類収集の範囲や物件数によって5万円〜15万円程度が相場とされています。
自分で申請することも制度上は可能ですが、戸籍の取得や登記原因証明情報の作成に慣れていないと差戻しを受けやすく、結果的に時間がかかることがあります。売却を急ぐ家族は司法書士に依頼する判断が現実的です。なお、相続による不動産取得には不動産取得税は課されません。
不動産会社に査定を依頼する
名義が相続人に移った段階で、不動産会社に査定を依頼します。査定方法は机上査定と訪問査定の二段階に分かれることが多く、机上査定は近隣の取引事例から短時間で概算を出し、訪問査定は実際に物件を確認したうえでより精度の高い金額を提示します。査定額は会社によって幅が出るため、複数社に依頼して比較するのが一般的です。
東日本不動産流通機構の2024年データでは、首都圏の戸建て売却にかかる平均日数は約97.3日でした。査定額の高さだけでなく、「その金額で実際に売れるまでの期間」と「販売活動の中身」を担当者から具体的に聞き出すと、現実的な売却計画が立ちます。
査定の段階で施設費や老後資金との兼ね合いを見直したい家族は、親の資産把握の手順についてまとめた

売買契約を結んで引き渡す
買主が決まったら、売買契約を締結します。契約時には手付金(売買代金の5%〜10%が一般的)を受け取り、契約から1〜2ヶ月後の決済日に残代金の受領と引き渡しを同時に行います。決済日には、買主名義への所有権移転登記と、売主側の住所変更登記などを司法書士が同席して進めるのが通例です。
引き渡しに必要な書類として、相続登記後に法務局から交付された登記識別情報(旧来の権利証に相当する書類)、印鑑証明書、固定資産税納税通知書、実印などが挙げられます。物件の鍵、設備の取扱説明書、境界確認書なども買主に引き継ぎます。遠方在住で立ち会いが困難な場合は、司法書士への委任で対応できるケースがほとんどです。
きょうだいで実家を相続した場合の分け方
実家を複数の相続人で分ける方法は、法律上いくつかの型に整理されています。実家のような分けにくい財産を扱う際には、換価分割・代償分割・共有分割のいずれを選ぶかで、税務上の扱いや将来のトラブル発生率が大きく変わります。それぞれの仕組みと注意点を順に見ていきます。
売って現金で分ける
実家を売却し、得られた現金を相続人で分ける方法を換価分割と呼びます。きょうだいで実家を相続した場合に最も選ばれやすい方法で、現金という分けやすい形に変えることで「誰がいくら受け取ったか」が明確になり、後日の争いが起きにくいのが利点です。
換価分割を行う場合、遺産分割協議書には「相続人全員が共有で取得したうえで売却し、売却代金を法定相続分(あるいは協議で定めた割合)に従って分配する」と明記します。譲渡所得税は各相続人が取得した持分に応じて申告・納税するのが基本です。代表相続人がいったん全額を受け取ってから分配する場合でも、協議書に按分の根拠が明示されていれば、税務上は贈与とは扱われません。
1人が相続して代償金を払う
相続人のうち一人が実家を取得し、他の相続人には現金を支払うことで取り分のバランスを取る方法を代償分割と呼びます。「実家を売らずに住み継ぎたい兄が、妹に法定相続分相当の代償金を支払う」といったケースが典型例です。思い出のある家を残しながら、きょうだい間の公平性も保つ折衷案として選ばれます。
代償分割で特に重要なのが、遺産分割協議書に「代償金として支払う」旨を明記することです。協議書に記載がないまま現金のやり取りをすると、税務上は贈与と判定されて贈与税の課税対象になる可能性があります。代償金の額が大きい場合は、税理士に協議書の文案と支払い方法を確認してもらうと安心です。代償金を支払う側に十分な現金がないと成立しにくい方法でもあるため、資金準備とセットで検討します。
共有名義にする場合の注意点
結論が出ないまま、とりあえずきょうだいで共有名義のままにしておくという選択もあります。手続き自体は単純ですが、相続実務では将来のトラブル要因として最も避けたい選択肢とされています。共有持分のままにしておくと、その後の売却・賃貸・建て替えのすべてに共有者全員の同意が必要となるためです。
さらに、共有名義のまま次の世代に相続が発生すると、共有者がきょうだいから「いとこ」「いとこの子」へと広がり、面識のない親族同士で意思決定をすることになります。連絡が取れない相続人が一人でも出ると、不動産の処分が事実上不可能になるケースもあります。
- 売却・賃貸・建て替えに全員の同意が必要になる
- 固定資産税は代表者宛に請求され、立替・精算で揉めやすい
- 次世代相続で共有者が増え、合意形成がさらに困難になる
- 共有物分割請求訴訟という最終手段は、関係が悪化したうえに費用もかかる
共有名義は判断を先送りにしている状態であり、問題の解決ではありません。相続人の間で結論を出せない事情があるなら、暫定的に共有とする期間を区切り、いつまでに換価分割か代償分割に切り替えるかを協議書に書き添えておくと、停滞を防ぎやすくなります。
相続した実家を売るときにかかる税金
相続した実家を売却すると、相続税とは別に売却に伴う税金が発生します。代表的なのは譲渡所得税(売却益にかかる所得税・住民税・復興特別所得税の総称)で、ほかに売買契約書の印紙税や、相続登記の際の登録免許税も関わります。相続そのものに対しては不動産取得税は課されません。税金の種類と発生する場面を最初に整理しておくと、後から想定外の出費に驚かずに済みます。
税額の個別計算は税理士の領域です。本サイトでは仕組みと数値の目安を示すにとどめ、最終的な判断は申告期限の前に専門家へ相談する流れをおすすめします。税制は毎年改正されるため、ここに記載した税率や要件は2026年5月時点の内容として参照してください。
売却益が出ると譲渡所得税がかかる
譲渡所得税は、売却価格から取得費(親が買ったときの金額)と譲渡費用(仲介手数料など)を差し引いた譲渡所得に対して課税されます。計算式は「譲渡所得 = 譲渡価額 −(取得費 + 譲渡費用)− 特別控除」です。売却益が出なかった場合は課税されません。
税率は所有期間で変わります。重要なのは、相続した不動産の所有期間は被相続人(亡くなった親)が取得した日から引き継ぐという点です。親が長年住んでいた実家であれば、相続後すぐに売っても長期譲渡所得として扱われるケースが大半です。
| 区分 | 所有期間 | 所得税 | 住民税 | 復興特別所得税 | 合計税率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 長期譲渡 | 5年超 | 15% | 5% | 0.315% | 20.315% |
| 短期譲渡 | 5年以下 | 30% | 9% | 0.63% | 39.63% |
たとえば親が30年前に1,500万円で取得した実家を3,000万円で売却し、譲渡費用が100万円かかった場合、譲渡所得は1,400万円となり、長期税率20.315%を適用するとおよそ284万円が税額の目安になります。実際には次に紹介する特別控除や取得費加算で大きく圧縮できる可能性があるため、まずは概算で課税の有無を見極めるところから始めるとよいでしょう。
取得費がわからない場合の計算方法
古い実家の場合、親がいくらで買ったかを示す売買契約書が見当たらないケースは珍しくありません。取得費を証明する書類がないときは、譲渡価額の5%を概算取得費として計算することが国税庁の取扱いで認められています。
ただし、概算取得費を採用すると取得費が極端に小さくなり、譲渡所得が膨らんで税額も大きくなります。たとえば3,000万円で売却した場合、概算取得費は150万円にとどまり、譲渡費用を引いても譲渡所得が2,700万円台に達することがあります。実家の押し入れや金庫、親の取引銀行に保管されている書類の中に契約書や領収書が残っていないか、売却前に一度確認しておく価値があります。
- 親が保管していた売買契約書・領収書
- 住宅ローンの抵当権設定書類(金額の手がかりになる)
- 不動産会社や仲介業者の取引履歴
- 当時の住宅金融公庫など公的融資の記録
建物部分については、取得費から経過年数に応じた減価償却費を差し引いて計算します。築年数の長い木造住宅では建物の取得費がほぼゼロに近くなることもあるため、土地と建物に分けた計算は税理士に確認しておくと安心です。
印紙税・登録免許税・確定申告も確認する
譲渡所得税以外にも、売却の各工程で発生する税や費用があります。売買契約書には印紙税が必要で、契約金額が1,000万円超〜5,000万円以下なら1万円、5,000万円超〜1億円以下なら3万円が軽減税率の目安です(軽減措置は適用期限ごとに延長の有無を要確認)。
相続登記の際には固定資産税評価額の0.4%が登録免許税としてかかります。司法書士に依頼する場合の報酬は5万〜15万円が目安です。一方、相続による不動産の取得は不動産取得税の対象外と地方税法で定められており、相続した時点では取得税の負担はありません。包括遺贈や特定遺贈の一部に例外がある程度です。
| 費目 | 発生する場面 | 金額の目安 |
|---|---|---|
| 印紙税 | 売買契約書作成時 | 1万円〜3万円(契約金額による) |
| 登録免許税(相続登記) | 名義変更時 | 固定資産税評価額の0.4% |
| 司法書士報酬 | 相続登記の代行 | 5万〜15万円 |
| 不動産取得税 | 相続では非課税 | 0円 |
| 仲介手数料 | 売買成立時 | (売買価格×3%+6万円)+消費税 |
売却した翌年の2月16日から3月15日までの期間に、譲渡所得の確定申告を行います。給与所得者で普段は確定申告をしていない家族も、不動産を売却した年は必ず申告が必要です。特別控除を適用する場合も、確定申告で適用要件を証明する書類を添付して初めて控除が認められます。申告漏れに気づかないと加算税の対象になるため、売却を決めた段階で翌年の申告までスケジュールに入れておくことが大切です。
使える可能性がある税金の特例
相続した実家の売却には、譲渡所得を大幅に圧縮できる特例がいくつか用意されています。代表的なのは空き家の3,000万円特別控除、居住用財産の3,000万円特別控除、そして取得費加算の特例の三つです。要件を満たせば税負担が大きく変わるため、自分の家族が当てはまるかをまず確認する価値があります。
ただし、特例は要件が細かく、併用できる組み合わせと併用できない組み合わせが入り組んでいます。判定を誤って申告すると修正申告や加算税の対象になりかねないため、本記事では要件の全体像を示し、実際の適用判断は税理士へ確認する流れを推奨します。
相続空き家の3,000万円特別控除
被相続人居住用財産(空き家)の3,000万円特別控除は、親が一人で住んでいた古い実家を相続人が売却したときに、譲渡所得から最大3,000万円を差し引ける制度です。適用期限は2027年12月31日(令和9年12月31日)までと定められています。
主な要件は次の八つです。すべてを満たす必要があり、一つでも欠けると適用できません。
- 被相続人が亡くなる直前まで一人で居住していた家屋であること
- 1981年(昭和56年)5月31日以前に建築されたこと
- 区分所有建物(マンション)でないこと
- 相続開始から譲渡時まで事業・貸付・居住の用に供されていないこと
- 相続開始日から3年経過する日の属する年の12月31日までに譲渡すること
- 譲渡対価が1億円以下であること
- 耐震基準を満たすか取り壊して売却すること
- 親子・夫婦など特別関係者への譲渡でないこと
2024年の改正で、相続人が3人以上の場合は控除額が1人あたり2,000万円に縮減される一方、売主負担での解体・耐震改修が売買契約後(譲渡後の翌年2月15日まで)でも認められるよう要件が緩和されました。きょうだい3人以上で換価分割するケースでは、控除額の差が大きく出るため、改正後の取り扱いを踏まえて税理士と試算しておくことをおすすめします。
親が介護施設に入所してから亡くなった場合は、施設入所直前まで自宅に居住していたなど一定の要件を満たせば対象に含まれます。住民票を施設に移していたかどうかも判定要素になるため、入所時の経緯がわかる書類は捨てずに保管しておくと安心です。
居住用財産の3,000万円特別控除
相続人が被相続人と同居していて、そのまま住み続けていたマイホームを売却する場合に使えるのが、居住用財産の3,000万円特別控除(マイホーム特例)です。所有期間にかかわらず、譲渡所得から3,000万円を差し引けます。
相続後に空き家になっていた実家を売る場合は、こちらではなく前述の空き家3,000万円特別控除の対象になります。逆に、親と同居して介護をしていた相続人がその家を売却する場合は、こちらのマイホーム特例の枠で判断するのが基本です。
住んでいた事実を証明するため、住民票や公共料金の支払い記録が判定資料になります。住まなくなってから3年経過する日の属する年の12月31日までに売却する必要がある点も、空き家特例と似た期限ルールがあるため要確認です。
相続税を払った場合の取得費加算
相続税を納めた相続人が、相続した不動産を一定期間内に売却した場合、納めた相続税の一部を取得費に加算できる制度が取得費加算の特例です。譲渡所得を圧縮する効果があり、譲渡所得税の負担を軽減できます。
適用期限は相続開始の翌日から3年10ヶ月以内の譲渡です。相続税の申告期限が相続開始から10ヶ月以内であることから逆算すると、申告後3年以内の売却が条件になります。期限を1日でも過ぎると適用できないため、相続税を納付した家族は売却スケジュールに早めに組み込んでおくと安心です。
計算式は「その相続人の相続税額 × 売却資産の相続税評価額 ÷ その相続人の相続税の課税価格」で、相続した不動産が相続税の課税対象に含まれていたことが前提です。基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人)以下で相続税がかからなかった家族は、そもそも対象になりません。
特例には期限と併用できないケースがある
三つの特例には、それぞれ期限と併用の制限があります。期限を過ぎて適用できなくなるのが最も多い失敗パターンで、相続税申告の対応に追われているうちに3年10ヶ月の取得費加算期限が過ぎてしまう事例が見られます。
| 特例 | 期限 | 主な併用関係 |
|---|---|---|
| 空き家3,000万円特別控除 | 2027年12月31日までかつ相続から3年経過する年の12月31日まで | 取得費加算と併用不可/居住用3,000万特例と併用不可 |
| 居住用財産3,000万円特別控除 | 住まなくなってから3年経過する年の12月31日まで | 空き家特例と併用不可/取得費加算と併用不可 |
| 取得費加算 | 相続開始翌日から3年10ヶ月以内 | 3,000万円控除と併用不可 |
3,000万円特別控除と取得費加算はどちらか有利な方を選ぶ二者択一の関係にあります。譲渡益が3,000万円を超える場合は取得費加算と組み合わせたいところですが、制度上は併用できません。どちらが有利になるかは、譲渡益と納めた相続税額の組み合わせで変わるため、必ず税理士に試算を依頼してから申告方法を確定する手順がおすすめです。
古い実家を売るときの注意点
築年数の経った実家を売却する場面では、建物の状態や残された家財の整理など、新築や築浅物件にはない判断が積み重なります。実家を建てた頃の暮らしを知るからこそ、思い出と費用の折り合いをつけるのに時間がかかる家族も少なくありません。一つひとつ落ち着いて確認していきましょう。
解体するか古家付きで売るかを決める
1981年5月31日以前に建築された家屋は旧耐震基準のため、買主が安心して住める状態にあるかどうかが売却価格に大きく影響します。選択肢は大きく三つです。古家付き土地として売る、解体して更地で売る、耐震改修してから売る、という整理になります。
| 選択 | 向いているケース | 注意点 |
|---|---|---|
| 古家付き土地で売る | 立地良好で買主側で建て替え予定 | 解体相当の値引き要求あり |
| 解体して更地で売る | 郊外で買い手の心理ハードルを下げたい | 解体後は住宅用地特例が外れ翌年の固定資産税が上がる |
| 耐震改修して建物付きで売る | 状態良好で改修費を回収できる見込み | 費用対効果が合わないケースが多い |
解体費の目安は木造で1坪あたり4〜6万円、鉄骨造で6〜8万円、RC造で7〜10万円とされています。延床30坪の木造家屋なら120万〜180万円が目安です。空き家3,000万円特別控除を使う場合は、譲渡後の翌年2月15日までに解体すれば適用できる改正後ルールも視野に入ります。古家付きで売る場合でも、不動産会社に「買主側で解体する売り方が可能か」を確認しておくとスムーズです。
家財や遺品を片付ける
売却前には、家の中に残された家財や遺品の整理が必要です。買主が内覧に来る前に最低限の片付けを済ませておくと、第一印象が大きく変わります。遺品整理業者に依頼する場合の費用は、間取りや物量によりますが、戸建て一軒で30万〜80万円程度が一つの目安です。
家族で形見分けをしたい品、寺院に納めたい仏壇、自治体の粗大ごみで処分できる家具など、扱いを分けながら進めると気持ちの整理もつきやすくなります。費用面で迷う場合は、本サイトの


遠方在住で頻繁に現地に通えない家族は、現地のきょうだいや親族と分担を決め、月に1〜2回まとめて作業する形にすると負担が分散します。遺品整理を全て業者に任せる選択も、心理的・時間的な負担を考えれば現実的です。
境界・雨漏り・シロアリなどを確認する
古い実家を売却する際は、建物と土地の状態を売却前に確認しておくと、契約後のトラブルを避けられます。隣地との境界が確定していない、登記上の面積と実測面積が違う、雨漏りやシロアリの被害がある、といった事項は売主の契約不適合責任として後から問題化することがあります。
- 境界標の有無と隣地所有者との境界合意
- 雨漏り・シロアリ・基礎のひび割れなど建物の劣化
- 給排水管・電気配線などライフラインの状態
- 越境している樹木や付属物(隣地の越境含む)
知っている瑕疵を契約書に明記しておけば、引き渡し後の紛争を避けられます。境界が不明確な場合は土地家屋調査士に依頼して確定測量を行う方法もありますが、費用は数十万円規模になることがあります。不動産会社と相談しながら、どこまで売却前に整えるかを決めていきます。
不動産会社の選び方
相続した実家の売却は、通常の住宅売却よりも書類が多く、相続人同士の調整も絡みます。不動産会社の選定によって売却までの期間や最終的な手取り額が大きく変わるため、最初の比較段階を丁寧に進めることが大切です。
- 複数社を比較し、査定根拠を確認する
- 査定額の高低だけで決めず、相場感をつかむ材料にする
- 各社からの電話対応が増える点に留意する
相続不動産に強い会社を選ぶ
不動産会社にはそれぞれ得意分野があります。投資用マンションが中心の会社、新築戸建ての分譲が中心の会社、相続や任意売却を多く扱う会社など、強みが分かれます。相続案件では、遺産分割協議書の確認、共有名義の合意形成、税理士や司法書士との連携など、通常の売却にはない工程が発生するため、相続実務に慣れた担当者がいる会社のほうがスムーズに進みます。
地域密着型の会社は、その地域の相場感や買い手のネットワークを持っているという強みがあります。一方で全国大手は、転勤族の買い手や、相続税納付期限に間に合わせるスピード感を求められる案件に対応できる仕組みを持っています。実家のエリアや売却の優先事項に応じて、地域密着と大手のどちらが向いているかを見極めます。
仲介と買取の違いを知る
不動産を売る方法には、不動産会社が買主を探してくれる「仲介」と、不動産会社自身が直接買い取る「買取」の二つがあります。それぞれの違いを把握したうえで、家族の事情に合うほうを選びます。
| 項目 | 仲介 | 買取 |
|---|---|---|
| 売却価格 | 市場価格に近い | 市場価格の7〜8割が目安 |
| 売却までの期間 | 戸建てで約3ヶ月以上 | 最短数日〜数週間 |
| 仲介手数料 | 必要 | 不要 |
| 内覧対応 | 必要 | 不要 |
| 向いているケース | 時間をかけても高く売りたい | 早く現金化したい・古家 |
相続税の納付期限が10ヶ月以内に迫っている、きょうだい間で早く現金で分けたい、遠方で内覧対応が難しい、といった事情があるなら買取の選択肢が現実的です。一方で、立地が良く時間に余裕があるなら仲介で市場価格を狙う流れになります。両方の査定を取って比較してから決めると、判断材料が揃います。
一括査定を使うときの注意点
不動産の一括査定サービスは、一度の入力で複数の会社から査定を受けられる仕組みです。複数社の査定額を比較できるため相場感がつかみやすい反面、申し込み直後から各社の営業電話が続くという負担があります。
- 連絡時間帯を指定欄に明記しておく(平日夜のみなど)
- 査定額が極端に高い会社は契約後の値下げ提案のリスクがある
- 3社程度に絞って訪問査定を依頼する
- 査定額の根拠(成約事例・路線価・固定資産税評価額など)を必ず聞く
査定額は売却保証額ではなく「この金額で売り出せる可能性がある」というあくまで見込みです。媒介契約を取りたい営業トークとして高めに出されるケースもあるため、査定額の高さだけで会社を選ばず、担当者の説明の納得感や対応の丁寧さも合わせて判断するとよいでしょう。
売れない実家の対処法
実家を売却市場に出したものの、買い手が現れず半年、1年と時間が過ぎてしまうケースがあります。地方の郊外、再建築不可の土地、隣地との境界が不明な土地など、一般市場では取引が成立しにくい不動産は珍しくありません。焦って大幅に値下げする前に、いくつかの選択肢を検討する余地があります。
価格や売り方を見直す
3ヶ月、半年と問い合わせがない状態が続く場合、まず売出価格と売り方の見直しを検討します。東日本不動産流通機構の調査では戸建ての平均売却期間は約97.3日とされており、この目安を大きく超えるようなら市場の反応と価格に乖離がある可能性があります。
更地として売っている場合は古家付き土地として売り出す、逆に古家付きで反応が悪い場合は解体して更地で出す、といった売り方の変更も選択肢です。媒介契約を別の会社に切り替えて、レインズへの登録状況や囲い込みが起きていないかを確認することも有効です。
買取・空き家バンクを検討する
一般市場で売れない場合、不動産会社による買取や、自治体が運営する空き家バンクへの登録という選択肢があります。買取は前述の通り市場価格の7〜8割が目安ですが、現状有姿で買い取ってもらえるため、家財整理や修繕にかかる費用を抑えられるメリットがあります。
空き家バンクは自治体が空き家の情報を集約し、移住希望者などに紹介する仕組みです。商業ベースの不動産流通網に乗りにくい物件でも、地域への移住を考えている人にとっては魅力的な選択肢となることがあります。手数料がかからない自治体が多い反面、成約までの期間が読みにくいという特徴があります。
境界が不明確、再建築不可、共有持分のみ、長年の放置で建物が傷んでいるといった訳ありの不動産は、一般の仲介では敬遠されがちです。こうした物件を専門に扱う買取サービスを併用すると、選択肢が広がります。
相続土地国庫帰属制度を検討する
2023年4月に施行された相続土地国庫帰属制度は、相続した土地を国に引き取ってもらえる仕組みです。売却も活用もできず、固定資産税の負担だけが続く土地を抱える家族にとっての最後の選択肢になります。
申請には1筆あたり14,000円の審査手数料と、承認後に納める原則20万円の負担金が必要です。土地の種類や面積によっては負担金が増額されることもあるため、無料で引き取ってもらえる制度ではない点に注意が必要です。
- 建物が建っている土地は対象外(解体してから申請)
- 担保権が設定されている土地は対象外
- 境界が明らかでない土地は却下されることがある
- 土壌汚染・崖地・通路として使われている土地は対象外
建物が残っている実家を制度の対象にする場合は、先に解体する必要があります。解体費と申請費・負担金の合計と、所有を続けた場合の固定資産税・管理コストを長期で比較し、どちらが家族の負担を抑えられるか試算してから判断する流れになります。法務局の事前相談制度もあるため、対象になるかどうかの判断は先に確認しておくと無駄な解体費を避けられます。
親から相続した実家は名義変更と税金を確認してから売却しよう
相続した実家の売却は、名義変更から税金の確認、特例の判定、不動産会社の選定まで、いくつもの段階を順番に踏んでいく作業です。一つひとつは難しくありませんが、相続発生から3年・3年10ヶ月・2027年12月といった期限が重なっており、後回しにすると使える制度が使えなくなるという構造があります。順番だけ押さえておけば、焦らず進められます。
- 名義変更(相続登記)は済んでいるか
- 相続人全員の合意はとれているか
- かかる税金とおおよその金額を把握したか
- 使える特例があるか確認したか
- 税理士:譲渡所得税・特例の適用判断
- 司法書士:相続登記・名義変更の手続き
- 弁護士:相続人間の調整・調停
- 不動産会社:査定・売却方法の相談
売却前のチェックリスト
本記事で扱った内容を、売却前に確認しておきたい4項目に整理しました。一つでも欠けていると後工程で戻りが発生しやすい項目です。
- 相続登記による名義変更は終わっているか
- 相続人全員の合意と遺産分割協議書の作成は済んでいるか
- 譲渡所得税・印紙税・登録免許税など税金の見通しを立てたか
- 空き家3,000万特例・取得費加算など特例の適用可能性を確認したか
専門家への相談先
相続不動産の売却に関わる専門家は、扱う領域がそれぞれ分かれています。一人ですべてを抱え込まず、内容に応じて適切な窓口に相談すると、結果として時間も費用も抑えられます。
| 相談内容 | 専門家 | 主な役割 |
|---|---|---|
| 譲渡所得税の試算・特例判定・確定申告 | 税理士 | 個別計算と申告書作成 |
| 相続登記・遺産分割協議書の作成 | 司法書士 | 登記手続きの代行 |
| 遺産分割の調停・審判・相続人間の紛争 | 弁護士 | 法的紛争の代理 |
| 査定・媒介契約・売買契約 | 不動産会社 | 売却の実務 |
最初の一歩は無料相談から
思い出の詰まった実家を手放す判断は、家族にとって簡単ではありません。すぐに結論を出す必要はなく、まずは実家の現在の価値を知る、特例が使えるかを専門家に確認する、といった情報収集から始める流れで十分です。無料の相談窓口や査定サービスから一歩を踏み出すと、漠然とした不安が具体的な選択肢に変わっていきます。
親の介護から相続、売却までは長い道のりです。介護の入口で迷っている段階の家族は投稿が見つかりません。も参考になります。順番を一つずつ踏んでいけば、家族で納得できる結論にたどり着けます。
