高齢の方にとって、要介護になるきっかけになりやすいのが入院です。
病気やけがの治療のためとはいえ、入院することによって身体機能や認知機能が低下してしまうことがあり、入院前の状態に戻るまでに相当の時間を要する場合も少なくありません。
ところが、「元気になった」とはまだ言いきれないような状態で、退院や転院を余儀なくされることがあるのをご存じでしょうか。
現在の病院は”元気になるまでいられる場所“ではなくなっています。
病院にある3か月ルール
現在の医療制度では、原則として長期入院ができなくなっています。
なぜなら、病院に支払われる診療報酬が、病気によって「おおよそこの位の入院期間で治療は終わるだろう」という想定をもとに決められる仕組みになっているからです。
入院は病院によって、診療報酬が異なり「出来高方式」と「包括評価方式(DPC)」があります。
- 出来高方式
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入院中の診療行為ごとに医療費を計算するもの
- 包括評価方式(DPC)
-
病状に応じて1日当たりの定額料金を基本に医療費を計算
包括評価方式(DPC)対象病院であるかは入院時に確認できます。
包括評価方式(DPC)対象で入院しているのに、他の医療機関で診察や投薬を受けると、その費用は自費となります。
病院は3か月で退院させられるという話もありますが、これには包括方式が影響しています。
病院としては投薬、検査、点滴など処置回数に関係なく診療報酬総額が変わらないもので「まるめ」とも呼ばれます。
入院が90日を超えると診療報酬の低い「まるめ」となるため、退院してほしいわけです。
入院して2週間は報酬も高いため、この期間は退院させたくないので逆に退院日に影響を与えます。
3か月ルールは、身体の状態に不安が残る高齢者であっても例外ではありません。
高齢の方ですと、短期間の入院でも歩行が困難になるなど、これまでできたことができなくなってしまいます。
そのため、入院当初から退院後の生活や介護についての心構えや準備をしておくことが大変重要になります。
入院中は「これからどうするか」を決めるための期間
入院を境に要介護になってしまったら、家族はとても不安になりますし、退院の要請があれば退院後の選択に大いに悩むことになります。
施設入居を検討する場合、今後の生活の場になるかもしれないことを安易に決められません。
そんな時は、病院に常駐する医療ソーシャルワーカーに相談しましょう。
課題をどう解消するかを一緒に考えてくれるので、例えば、早期の退院が決まったのだが退院後の生活環境を整える時間が足りない、と感じたときなど医療ソーシャルワーカーに伝えてください。
遠慮せず「困っている」ことを声に上げて伝えることが大切です。相談も無料で頼もしい存在です。
医療ソーシャルワーカーは、治療のことだけではなく、入退院のことや退院後の社会復帰、医療費や当面の生活費などの経済的な問題について相談に乗ります。
病院や介護施設内で担当医師や看護師と患者の橋渡しをするだけではなく、さまざまな分野で多くの支援や解決策を得るために、行政機関や民間施設と連携して協力関係を築くための活動も行っています。
病院によっては、入院の前に面談をして、今後はどうしたいのか、退院後はどういう生活を望んでいるのかを病院側と方向性の意識合わせをしてから入院するケースもあります。
どんな病気であっても治療が終わったら、すぐに介護も含めた新しい暮らし方の選択に直面するということです。
- 家に帰るのか
- 施設を探すのか
- リハビリや療養の機能を持つ別の病院に転院するのか
病院で治療を受けている間は、それを考えて決定するまでの期間と考えましょう。
介護保険施設との橋渡しも
特別養護老人ホームや介護老人保健施設を検討したい場合も医療ソーシャルワーカーは橋渡し役になってくれます。
これらの介護施設には生活相談員という専門職がいて、医療ソーシャルワーカーと連携し入居に向けた調整をしてくれます。
待機も多いのですぐに希望通りになるとも限りませんが、アドバイスをもらえるので何もしないよりは前進します。
抗がん剤や胃ろう、24時間の中心静脈栄養など医療依存が高まり在宅復帰が困難となるケースでは、医療療養型病院の紹介をしてもらえます。
退院後、在宅を希望する場合は、担当のケアマネージャーに相談するのが一番ですが、訪問診療を支援する退院調整看護師を配置している病院もあります。
この場合も医療ソーシャルワーカーに橋渡しを依頼することができます。
退院後も継続した治療が必要なとき
療養病床は長期間の療養が必要な患者のベッドを病院内に設置したもので、医療療養病床(医療保険対象)と介護療養病床(介護保険対象)があります。
現在ある介護療養病床は高齢者の社会的入院、高額療養費の問題で廃止予定ですが、今後その役割は介護医療院などの医療付き介護施設へと転換されます。
医療療養病床は、今後も医療措置の必要性の高い患者を受け入れるため残ります。
- 医療療養病床(医療保険対象):継続
- 介護療養病床(介護保険対象):廃止(2024年3月末)
家族との話し合いが重要
突然入院することになったとき、本人はもちろん家族も心の準備ができていないことが多いもの。
入院中はこれからのことを検討して選択する期間だと言えますが、元気なときから本人と家族で、いざというときどうしたいかを話し合っておくことが必要です。
実際には入院先から直接、自宅には戻れない場合もあると思いますし、「自宅の近くに病院があるからそこに転院したい」と考えたとしても、転院するためにはさまざまな条件が揃わない場合もあります。
いざという時のために、近隣の病院は
- 急性期病院なのか
- 回復期リハビリ病院なのか
- 地域でどのような役割を担っている病院なのか
などを知っておくと検討するときに役に立ちます。
また、介護保険のことや医療制度のことも、自分たちで知識を得られる範囲で日ごろから知識を得ておきたいものです。